第153回とまりぎインタビュー:須田彩貴咲さん【日本の音楽教育を変えるために】
こんにちは!トビタテ高校3期生の積千夏です。今日は高校2期生でニュージーランドに留学していた須田彩貴咲さんにお話を伺いました。
目次
トビタテ!留学JAPANでの留学
トビタテで留学できるなら!
積)留学をしたきっかけを教えてください!
須田)トビタテを知るまで、留学をしようと考えたことは一度もありませんでした。たまたま学校でエージェントの方が留学説明会を開いてくださって、費用を負担してくれるのならとりあえず申し込もう!と思い留学を決めました。
それで、実際にエージェントのオフィスに出向いて、どういう内容で留学をしたいのかをお話をさせてもらったんですね。そしたら「そんな内容では甘い」と門前払いを食らったんです(笑)でも、それが悔しくて本当に自分はこの目的で留学したいのか、留学じゃないと達成されないのかと自問自答しながら書類を作成するうちに、意志が固まって、自分は絶対に留学したいという思いが強くなりました。
こういう学問で留学をしたいという訳ではなく漠然とトビタテで留学できるなら、と思って興味のある音楽を媒体として留学しようと考えました。
積)逆パターンですね!エージェントの方がサポートしてくれたんですね!
須田)先生たちが分からないことは、専門家のエージェントに聞いて!みたいな感じで、いい意味で必要なところをエージェントの方と学校の先生で手分けしてサポートしてくださいました。
積)ニュージランドを選んだ理由はありますか?
須田)島国がいいなというのは漠然と思っていました。というのも教育が発展するときに、大陸続きの国だと隣国の影響を受けやすいかなと考えました。日本のように島国だと独自の教育が発展していくのではないかという、私の仮説を実現すべく、同じ島国で比べたいなと思ったんです。島国で、初めての留学でも、あまりハードルが高くないところだと、オーストラリアかニュージーランドと勧めていただいて、オーストラリアで考えていました。ですが、トビタテの合格通知が遅かったため、オーストラリアの高校が他の留学生で埋まってしまい、田舎町にあるニュージーランドの学校に留学しました。
積)そうだったのですね!
須田)絶対にこの学校がいいと決めた訳ではないんですけど、留学先の学校は街にある唯一の学校で、幼稚園から小中高と一貫校だったので、すごく面白かったなと思いますね。中学校1年生から高校3年生までの音楽の授業を全て見させていただいて、全て参加したので、学年が上がっていくにつれて、仕組みが理解できたのは良かったです。
積)一貫校で良かったですね!
須田)他の日本人の留学生もいましたが、私みたいに音楽だけを履修している特殊な学生はいなかったので、Music studentって言われるくらい認識されていていました(笑)私としてはすごく良かったなと思います。
積)ということは音楽の授業をたくさん履修していたんですか?
須田)一日中音楽の日もありました。授業が90分くらいで1日3コマくらいしかないんです。3コマ全て音楽の日もありましたし、音楽がない日は美術とかお裁縫のクラスとかに混ぜてもらって一緒に作品を作ったりしました。
音楽の授業の様子
日本とニュージーランドの音楽教育
積)楽しそう!現地の音楽が日本と比べて違うなと思うことはありましたか?
須田)たくさんありました!!日本の音楽室ってピアノがあって先生がピアノを弾いて先生が授業を進めていくイメージが強いと思うんです。私は中高一貫校で歌唱を中心に音楽の授業を受けてきたんですけど、現地の音楽室は、入った瞬間にAppleのパソコンがずらっと並んでいて、コンピューターミュージックがすごく盛んでした。音楽室にレコーディング室もあって、自分たちで演奏した曲を録画録音することもできました。
まず、音楽室にピアノがないんです。生徒の人数のウクレレとかギターがあって、バンドみたいな形から音楽を学んでいるんです。まず中学生でウクレレを少しやって、高校生で高度な座学とともに、ギターをだいたい弾けるようになる。中学生だと、ウクレレを使って90分間作詞作曲をしていました。歌詞のネタはすごく軽いんですよ。ひたすら、パンケーキは美味しいって言っている子達もいれば、元気な歌を作っている男の子たちもいました。
音楽を聴くとか、歌う、できているものをなぞるだけではなくて、自分から主体的に参加する姿勢がすごくいいなと思いました。
積)私が受けた授業だと、先生が立って、それに従って歌うっていうようなイメージがあります。
須田)印象としては、技術を教えてもらうのが日本の音楽教育だなと思いました。発声はこうで、この曲はこうなっているって先生が教えて、生徒はそうなんだ、なるほどなって知識を与えられている。どちらかというと自分から自分なりの音楽表現を模索しにいくっていうのがニュージーランドの教育だなって思いました。
積)確かに。
須田)ウクレレで作詞作曲する授業では、先生が授業の冒頭で、コードを3種類くらい教えるんです。その和音だけを教えて、あとは曲を作るという生徒の自由な時間でした。
積)楽しそう…!
須田)先生が話している時間より生徒が、こうする?どうする?って考えている時間の方が多くて、先生は生徒が困ったときにMr.という風に呼ぶっていう。手取り足取り教えてあげるのが先生なんじゃなくて、わからないことをサポートしてあげるのが先生なんだなって感じましたね。
積)やっぱり、日本と全然違うんですね。
須田)少人数学級とか、アクティブラーニング、もっと生徒の主体性をと言われている教育現場の中で、理想は、多分日本も先生が教えるだけではなくて生徒同士が学び合う姿だとは思います。でも、その課題に対しては、大学に入学してから、教育史とか色々な授業を学ぶ中で、日本の教育は画一的な国民を量産するために一斉授業をしてきた背景もあって、今すぐ生徒たちの主体的な切り替えられる特効薬はないと思うんですね。
留学する前も帰ってきてからも、日本の音楽教育を変えるって言っていたんです。でも、大学で学んだり、教育実習をして、日本には日本なりのやり方があって定着したっていうことがすごく分かったので、高校の留学だけで終わらず、大学でも教育について学ぶのはすごく楽しいです。それに、留学で得た着眼点がクリティカルな視点でも見ることができているので、やはり留学は大学でも活かされているなと思っています。
ウクレレで作詞作曲する授業
積)大学でも教育に関することを学んでいるんですか?
須田)そうですね。地域教育文化学部に所属しています。私は中高の音楽の教員免許の取得目指しているので、実習をする予定です。
積)私は小学校の音楽の授業で、一人ずつ歌わなきゃいけなくて、すごく嫌で泣いたのを思い出しました(笑)ニュージーランドの音楽の授業がいいなと思いました。でも日本にも色々な歴史があって今の授業の形なんだなって知りました。
須田)私もありました!人前で肉声を出すことの恥ずかしさ、他の人と比較したときに下手って思われることへの恐怖が先行してしまうことで苦手意識が強まってしまう。というのも、私は、ピアノは弾くんですけど、歌が苦手で。音楽の先生になろうと思ったのも、歌が嫌いな子を救える音楽の授業をしたいって思ったんです。私も人前で一人ずつ歌わされた嫌な思い出があったので。でも、音楽の授業は嫌いだけど、カラオケは好きっていう人もいるじゃないですか。音楽ってすごく日常で密接しているはずなのに、音楽の授業となると、成績評価のことを気にしてしまう風潮に疑問に感じました。歌うことが好きという気持ちよりも、歌が上手いという技術面を要求されてしまったり、受験科目ではないからという理由から軽視されてしまったり。それがすごく勿体無いと個人的に感じていて、音楽の授業で学んだことが生活にも活かされてきて、色々なことに興味のある生徒が、色々な着想から、音楽へのインスピレーションを受けることができたり、もっと音楽の授業で生き生きする生徒の姿を、私は理想としています。ニュージーランドの生徒たちは楽しく授業を受けていたので、そういった生徒が、もっと日本にも広まればいいなと思って。そういう教員になれるといいなと思っています。
積)私の音楽の先生が、そういう先生だったら良かったなって思いました。
フィリピンへ
須田)大学に入ってからGlobal Teacher Programでフィリピンにも行きました。それもトビタテの知り合いの知り合いが教えてくれて、全国に広がるトビタテのコミュニティは本当にすごいな!と思います。GTPはセブ島に行って3週間くらい英語で授業をしてくるプログラムで、なかなかハードに聞こえるんですけど、フィリピンの子達は踊るのが大好きで、音楽が流れたら体が動いちゃうような、すごくワクワクする日常を送っていていました。入学式などの式典でも先生たちの踊り発表もあるくらい、歌うのも踊るのも音楽が大好きな国民性がありました。私は、小学校1年生に授業をしてきました。母国語が英語ではないため、英語で話してもなかなか伝わらないんです。でも音楽をかけると、楽しそうな姿が見れて、音楽は、言語を超えた力があることを感じさせられました。
積)フィリピンでの活動もトビタテの留学が活かされているんですね。
須田)今はやっぱり厳しいんですけど、海外っていう日本と違うフィールドで学ぶことで、日本の良さもまた見えてくるんですよね。日本の音楽教育が大嫌いで、悪いところしかない、だから変えてやるって思っていたんですけど、ニュージランドに留学して、日本の良さも見えて日本文化を愛せるようになったので、そこの成長も大きかったなって思いました。
積)好きなことで留学している人が多い中、嫌いだから変えてやるという考え方がいいですね。
須田)私みたいな、歌うの嫌だな、音楽の時間嫌だなって思う生徒を減らしたい。そういう思いも方が強かったですね。
フィリピンの子どもたちとの1枚
積)今は教師を目指しているんですか?
須田)大学1年生までは教師しか考えていなかったんですけど、子ども達が学び、成長できる場って学校だけじゃないなって気が付いたんです。学校では学ぶことを文部科学省から決められているから、与えられたことを子どもたちに教えるんですけど、公民館や博物館、図書館などは社会教育施設と呼ばれていて。社会教育施設は、学習者の視点で主体的な学習を促す施設です。この前の実習では、山形市の少年自然の家に行って、子どもたちが成長できる場って学校以外にもたくさんあるんだって知りました。
教育は子どもたちに対してじゃなくて、社会人にも学び続ける場があることも知りましたし、教育っていう要素って学校だけじゃないことにも気づいてしまって。いい意味なんですけど、だとしたら教員として学校という場で教育に関わることだけにこだわらなくても、関わり方次第では人が成長する過程に携わることができるんじゃないかなって思っています。もちろん教員という一つの進路も見据えつつ、学校以外でも、どういう支援、サポートができるのか視点は常に持っておきたいなと思いながら私自身も学んでいる途中です。
まずは自分が、積極的に色々なところでコミュニティを持つことだったり、学びとることを意識して、一つのことに囚われず、色々見ることで、自分らしさも見えてくることもあるので、そういう感動体験を子どもたちにも学びの仕掛け人としてシェアできたらいいなと思っています。
編集後記
好きなことで留学ではなく、「音楽嫌いな生徒を救うため」の留学でとても素敵だなと思いました。実習も応援しています。インタビューありがとうございました。