第176回:~はじめての留学特集 vol.11 ~「あのときの回り道は無駄ではない」藤井優花さん
2021.07.12
「海外初チャレンジ枠」で留学したトビタテ生を取り上げて,留学の動機や留学中の話,そして,留学が与えた影響に関して紹介する「はじめての留学特集」。
第11回は多様性人材コースで留学した藤井優花さん。18歳の時に留学が決まっていたが,病気により断念。その出来事が留学に対する思いを変えました。その2年半後に念願の留学をトビタテで叶えました。3ヶ国の留学で経験したこと,そして留学で見た景色を日本でも作りたいと始めた活動について聞きました。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】
目次
今回のトビタテ生
名前:藤井優花
トビタテの期・コース:大学9期・多様性人材コース
留学先:ベルギー・デンマーク・オーストラリア
留学テーマ:難民のエンパワーメントを学ぶ
埼玉発世界行き・埼玉県国際親善大使(2019-2020年度)。留学前から難民学を専門的に学び、トビタテ生が代表を務めるNPO法人WELgeeでサロン事業統括として1年間インターンを経験。現在はトビタテ生と「多様なライフストーリーに出会う場所」をコンセプトに “Dialogue Radio” というPodcastを運営。
どんな状況になっても,留学に行きたかった
― 留学に行こうと思ったきっかけはなんですか?
小学校の頃から英会話スクールに通っていたんです。その英会話スクールの先生の影響もあって,大学生になったら,留学に行きたいなとは思っていました。最初は,カナダに行こうと思っていたんです。しかも,理由は海外の有名人に会いたかったからです。(笑)そんな気分で海外留学に行ってみようと思っていました。
― トビタテを知ったきっかけと,応募しようと思ったきっかけは何ですか?
大学1年生の時に,カナダ留学が決まっていたんです。でも,その時に免疫の病気を発症して,入院したので,留学にいけなくなってしまいました。それは,一時的な病気ではなかったので,「健康状態的に海外に行くなんてあり得ない」という状態になってしまいました。
それでも,私は海外に行きたいという強い思いがあったので,海外の有名人に会いたいからって理由だけでは,だれも渡航を許可してくれないなと思いました。それで,どうして留学したいのかということを自分の中で深く考え始めたんです。その当時,大学で中東政治を勉強していて,難民に関して勉強していました。日本では難民という存在が身近ではないので,難民支援をしている現場を実際に見てみたいなと思うようになり,留学をより真剣に考え始めました。そんな時に,トビタテの存在を大学の先生から教えてもらったんです。自分が海外でやりたいことに対して支援してくれるということが,とても魅力的でした。
トビタテに応募しようと思ったのは,自分が病気の治療中であるということもあって,他の人よりお金がかかるので,サポートしてもらえるんじゃないかなと思って,応募を決意しました。
― 留学分野である「難民支援」に興味を持ったきっかけは何ですか?
病気が分かったときに,実はかなり進行していた状態で発見されたんです。18歳で「死ぬかもしれなかった」っていう現実がやってきたんです。なんともいえない不安に襲われました。当時,私が勉強していたのはシリア難民のことでした。彼らは,戦争で国を追われてしまったのにも関わらず,違う国で生きていこうとしているということを知りました。この人たちも死に直面した経験をしたのに,必死に生きていこうとしているって思ったんです。なんとなく,自分の気持ちにリンクしたのかもしれません。勉強していくうちに,授業の中で,日本にも難民の人達がいるということを知り,その人たちを支援したいなという気持ちから,難民支援に興味を持ちました。最終的に,支援っていう一方的な形ではなくて,彼らと一緒に何かをしていくっていう協働的な形で難民と関わっていくというものに興味が移っていきました。
― ベルギー・デンマーク・オーストラリアを選んだ理由はなんですか?
実際に難民支援をしている現場を見てみたいと思っていたので,難民支援をしているNGOを調べ,ベルギーとデンマークとオーストラリアがいいんじゃないかということになりました。デンマークに関してはトビタテを教えてくださった先生が「デンマークの教育は面白い」ということを教えてくださったので,デンマークの学校にも通ってみたいなと思って選びました。
支援する人から,一緒に社会を作る人に変わった
― ベルギーではどんなことをしていたんですか?
ブリュッセルにある民間のNGO団体とブリュッセル市が共同運営している難民センターというところで1ヶ月間ボランティア活動していました。当時は400人以上の男性の難民が生活していました。400人分のご飯の準備,配膳,片付け掃除っていうのが主な仕事でした。配膳とかをしているときに,難民の方とのコミュニケーションを取っていました。フランス語圏からの難民が多いので,英語の話せる難民の方に通訳をしてもらいながら,交流をしていました。私が難民のことを勉強していると話すと,「君にはこれを話さなきゃいけない!」と自分の境遇を話してくれる方もいて,難民の方と密に交流ができた機会でした。その施設にはいるのは若い世代の方が中心で,なかには,10代の方もいました。
ほかには,難民センターに入れない人たちのためのサポート活動もしていました。ブリュッセル駅の半地下スペースみたいなところに難民の方たちが,段ボールを敷いて,ほぼ居住状態になっていました。その人たちに食料支援のボランティアをしていました。
ベルギーの難民センター
― デンマークではどんなことをしていたんですか?
9ヶ月間デンマークに滞在していました。最初の2ヶ月はフォルケホイスコーレという国民学校に通って,政治学や社会課題を学んでいました。私が所属していたコースを運営している先生が西アフリカ出身で30年間自分の国に帰れない境遇の方だったんです。その方が先生として私のクラスを担当してくださっていました。
残りの7ヶ月間はその先生が運営しているNGO団体でインターンをしていました。その方の本業がNGOの代表で,副業として先生をしていたんです。ベルギーでは支援する立場として,難民の方と関わる機会が多かったんですけど,デンマークでは同僚や上司が難民の方という環境で活動をしていました。デンマーク人だけではなく,世界各国から来たスタッフの方と一緒に活動していました。ここでは,難民の方と一緒に高校生や大学生に向けて,移民・難民のことやSDGsに対して理解を深めるワークショップを設計して行いました。
現地だと,難民の方と働くことがスタンダードになりつつあるようで,彼らと一緒に何かをやるという環境に身を置けたことはとても貴重でした。関わっていると,彼らの本来持っている力やスキルを存分に感じられました。難民だから,外国人だからという理由で区別されることなく,スキルで評価されて,活躍できる世界観を日本でも作りたいなと思うようになりました。
*フォルケホイスコーレ:北欧独自の全寮制教育機関。哲学者であり教育者でもあるデンマーク人のグルントヴィが「すべての人に教育を」というコンセプトのもと,主に学校に通えない農家に育った人などを対象に創設した。教員と生徒が共同生活をし,試験や成績評価は存在しない。
NGOのスタッフのみなさんとワークショップの様子
― オーストラリアではどんなことをしていたんですか?
タスマニア島で “Human Library” を20年近く運営しているNGOでリサーチインターンを2ヶ月間していました。この団体は地域密着型の団体だったので,どうやって難民支援を現地の教育委員会や学校と協力して行っているのかということを学んでいました。オーストラリアは難民キャンプから難民認定を受けた人達を政府として受け入れている体制を取っています。なので,ベルギーと違って家族でオーストラリアに来ている方が多かったです。
その団体の紹介で難民の方が学校に通えるようになるために英語を教える学校でもティーチングアシスタントとして活動をしていました。その学校は行政が運営していて,無料で通えるんです。私と同世代の方がそこに通って英語を勉強していました。同世代の難民の方がオーストラリア社会で生きていくためにどんな学習をして,どんな準備をしていくのかというのを目の前で見て学ぶことができました。
*Human Library:生きた人間を「本」として30分の対話時間を貸し出す催し。Living Library,生きた図書館とも呼ばれる。
― 難民の方と接していく中で印象的な話や出来事はありますか?
特に印象的な話は,ベルギーの難民センターにいたときに,私と同世代くらいのパレスチナのガザ地区から来た難民の青年から聞いた話です。彼の住んでいた地域が爆撃にあって,その青年も頭にケガをしていました。彼が「これを見てくれ」って傷口を見せながら,話が始まったことが衝撃的でした。その爆撃で,親戚を亡くして,自分の国で生活ができないから,逃げてきたようでした。中東からいろんな国を超えて,北アフリカのリビアにたどり着いて,リビアから海を渡り,ベルギーまでやってきたんです。やっと思いで着いたベルギーで待っていた現実は,後遺症との戦い,難民申請中で不安定な生活でした。家族はまだパレスチナにも残っていて不安な状況が続いていることもあって,私では想像も出来ないような人生を歩んでいました。
そんな彼が最後に「君が日本で難民のことを学んでいる。そして,日本にも難民がいるっていうことを僕は初めて知った。これを君に話した理由は,君がこれを知ったら,日本にいる難民に何かしてくれると思ったからだ。」って言ってくれたんです。その時に,こんな会って間もない人を信頼して,彼なりに同じ境遇の日本にいる難民の方の未来を託してくれたんだと思いました。背中を押される気持ちでもあり,覚悟を見られた気持ちでもありました。
デンマークで見たあの光景を日本でも実現したい
― 留学後に何か考え方の変化はありましたか?
留学する前は「難民の方が生きやすい社会を作りたい」とか「難民の方と一緒に何かをしたい」っていう思いが強かったんです。でも,留学中の経験から,難民の方が同僚だったり,近所に暮らしているということが当たり前になる社会ってどんな感じなんだろうって考えるようになりました。そこから,難民かどうかということは関係なしにいろんな文化,背景を持った人が輝ける社会を作りたいと思うようになりました。違いをポジティブに捉えて活用していくには,どうしたらいいのかということに関心が向くようになりました。
― 留学後に始めた活動は何かありますか?
トビタテ生の仲間を中心に “Dialogue Radio” というPodcastを始めました。「多様なライフストーリーに出会う場所」をコンセプトに,高校生から社会人までさまざまなゲストを迎え,人生経験を対話形式で深掘りし,発信しています。カジュアルに自身のストーリーを語れるトーク番組を目指しています。
デンマークでラジオの授業を取っていたということもあって,ずっとラジオをやってみたいなと思っていました。ヨーロッパには難民の方がパーソナリティをしているラジオがあって,そんなラジオが日本でもできたらいいなと思っていました。でも,日本に帰ってきて,今の社会は多様な人がいて当たり前の社会なんだという考えに変わったので,いろんな人の生き方をいろんな角度で拾っていきたいなと思い,このコンセプトでラジオを始めました。
ラジオの運営メンバーのみなさんとの写真
― トビタテで留学してよかったことは何ですか?
なにかあったときに助けてくれる人やコミュニティを得られたことです。
私にとって留学することはかなりチャレンジングなことでした。2年半待ってようやくいけた留学だったんです。その時に,お金の面でも助けてもらいましたし,コミュニティにも助けてもらいました。ヨーロッパに滞在していたときは,同期のトビタテ生に助けてもらったり,メンタリング制度でメンターの方に相談しながら,乗り越えられたりしました。1人で異国のいろんな地域を巡って,毎回最初から人間関係を作っていくのって想像していたよりも大変だったんです。そんな時にトビタテの同期やコミュニティみたいな大きなつながりがあったからこそ,留学が成功したのではないかと思います。現地で応援してくれたり,サポートしてくれる人がいるっていうのは心強かったです。
― 藤井さんの今後の展望やVisionは何ですか?
デンマークで経験したあの光景を日本でも実現したいということが自分の目標になっています。境遇や背景に関わらず,多様な個性が本当の意味で輝く社会,その社会のインフラを作っていきたいです。そのこと自体はものすごく大きなことなんですけど,その社会に向けての第一歩として,Podcastを通じて「いろんな生き方っていいよね」「難民の方の生き方も,大学生の生き方も,社会人の生き方もどれも素敵だよね」ということを伝えていきたいです。それを聞いた誰かが「こんな生き方あっていいんだ」と思って,自分らしく生きるための第一歩になれたらいいなと思います。
今はメディアでの発信がメインですが,将来的に多様な人同士の協働を促進する場のコーディネーターになりたいなと思います。ここに来れば面白い人に会えて,何か新しいプロジェクトが始まる、そんな刺激と居心地の良さがある空間をつくることを目指しています。
― 最後に留学を夢見る学生へメッセージをお願いします。
私も2年半も待って,留学に行きました。自分の体調もそうですし,いける国がどこかということも含めてたくさんの準備が必要でした。そういうこともあって,回り道をして実現した留学でした。でも,留学を待っている間の不安や期待を抱いている時に経験した出来事って,留学した時に活きてくると思うんです。あの時,そのままカナダに留学していた私ではできなかったこと,考えられなかったこと,見向きもしなかったことがトビタテで留学した時の私は持っていました。そんな私だからこそ,3ヶ国の留学を達成できたと思います。
今,留学を待っているみなさんは本当に苦しい期間だと思います。でも,その経験は絶対に無駄にはならないと思うんです。必ずどこかで活きてきます。ここで耐えて,きついと思いますが,やれることを地道にやっていくと,留学で必ず花開く時が来ます!
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