第190回:理系のトビタテ生特集 第7弾小林里帆さん【爬虫類の全脳標本を用いた睡眠研究】
2021.10.11
みなさんこんにちは!
大学4期でロシアに留学していたトビタテ事務局インターンの鈴木花穂です!
「理系のトビタテ生特集」という特集で、
理系分野を専門に学びに行っていたトビタテ生にスポットライトを当てて、留学中に学んだことや、その後の活躍をご紹介しております!
そんな特集の第7弾!今回の専門分野は。。。。。
「睡眠 」です!!
今回は、 睡眠について学びにドイツに留学した大学8期の小林里帆さんにインタビューしてみました!
目次
トビタテ!留学JAPANでの留学
小林里帆(こばやしりほ)さん
大学8期 理系・未来テクノロジーコース
留学テーマ:爬虫類の全脳標本を用いた睡眠研究
睡眠の謎にはまっていって…
鈴木)小林さんの専門を教えてください。
小林)私は現在、薬学研究科の大学院で薬学と神経科学を学んでいますが、特に睡眠を専門分野にして研究しています。学部時代も薬学部に在籍していました。実は、私は元々睡眠研究をしようと思っていませんでした。大学進学後、研究者になりたいと思って参加したラボの先生がたまたま睡眠を研究していたので、先生について色々と勉強や実験を始めてみると、睡眠について、まだ明らかになってないことが多いことが分かりどんどん面白いと思うようになりました。
鈴木)例えばどんなことが明らかになっていないのですか?
小林)睡眠がどうして必要なのかという単純な疑問に対しても、まだはっきりと答えられていないと思っています。
鈴木)そうだったんですね!漠然と体を休めるためだと思っていました。
小林)目的が分からないのに毎日やらなくてはいけない点にギャップを感じて面白いな、と思いました。
それから、睡眠を取っているときは意識が無いので、人がどんな感覚になっているのかも分かりません。自分は睡眠中に何をしているんだろう…それも不思議です。
鈴木)言われてみればそうですね。
やりたいことを、理想的な環境で
鈴木)海外で研究をしようと思ったきっかけを教えてください。
小林)一つ目は、高校時代の短期留学経験がとても充実していて、大学生になったらもう一回留学に行きたいと思っていたことです。薬学部に進学した後も、学部生としての6年間のうちに留学することを念頭に置いていました。
鈴木)高校生の頃からすでに学部留学を考えていたのですね!
小林)二つ目は、留学先の研究所が、テーマ、環境的にわたしの理想通りだったからです。その研究所は、世界でもめずらしく爬虫類の全脳を使った睡眠研究をしています。私が実験していたフトアゴヒゲトカゲ は変温動物で、低酸素条件に強いため、脳を取り出した状態でも長時間の記録が可能です。睡眠は長い時間間隔で起こる生体変化なので、留学先で研究すれば、知りたい問いに対して、可能な実験の幅がとても広がるだろうと、魅力に感じました。
鈴木)爬虫類の全脳を使った研究にはそのようなメリットがあるのですね!
小林)それから、その研究機関が、鳥類と哺乳類だけでなく、爬虫類にもノンレム睡眠(深いい眠り)とレム睡眠(浅い眠り)が存在するということを発表したのを知り、爬虫類を使った研究を通して、なぜ二種類の睡眠があるのか、分かることがあるのでは、と考えました。
また、留学先、研究機関としても魅力的な点がたくさんありました。まず、潤沢な予算を使って、研究に集中できる環境が用意されていました。例えば、日本では自分で行わなければならない、動物の世話や、試薬等の発注をアニマルケアテーカーやテクニシャンなど専門の人が代わりにやってくれていて、分業体制が整っていました。実際、留学時にはそういったサポートによって自分の研究テーマについて様々な角度から深く考えられる、時間と心の余裕が生まれました。
留学先のボスには実験を始める前には5つ先以上の結果を見越し、必要だと思ったことを行いなさいと常に言われており、周囲の大学院生やポスドクもそのように実験を行っていました。そのレベルには到達できたかは分かりませんが、研究にかなりどっぷりと集中でき、約半年間でもとても濃い研究活動を行えました。
また、ドイツは一般的に労働に対するルールが厳しい国で、周りの研究者も含めみなさん、休日と平日のメリハリがついており、ワークライフバランスがとてもとれているように感じました。休日に休みやすく、自分自身の時間を持てそうだと思いました。留学中に将来のことも考えたいと思っていたので、その点でも理想的な環境で、その研究所を選びました。
鈴木)自分のやりたい研究を、労働環境が良い研究所でできるのは最高ですね!
写真①留学先のMax Planck Institute for brain researchです。ドイツのフランクフルト市内から電車で20分程度郊外へ行ったところにあります。周りにはゲーテ大学や他の研究機関も多数存在しており、とても良い雰囲気でした。トビタテでの留学活動の後も計2回インターン生として研究活動を行いました。
Max Planck Institute for brain researchで
現地での活動について教えてください。
小林)爬虫類から全脳を取り出して、どのような睡眠・覚醒制御が行われているか、薬理学と電気生理学的方法を用いて研究しました。特に脳にある前障(ぜんしょう)という領域に着目し、脳から前障だけを取り出しても、自発活動(脳のある特定の領域から指令がなくても、細胞が自分で神経活動を起こせること)が見られることが分かりました。次にセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質によって前障の神経活動が調節されることを見つけました。
鈴木)その部分単体で活動することができるのですね。生物の体の仕組みって不思議ですね。
小林)他にも、ラボ内で使われるプロトコール(実験方法をまとめたもの)の作成のために条件検討実験もいくつかしました。今ではラボで最も使われるプロトコールとなり、達成感がとてもありました。留学生活の最後には、研究報告も行いました。
写真②留学先では、所属ラボ内だけではなく他ラボや、ときには他の研究機関の人と食事を共にしながら会話を楽しむ機会がありました。写真は、所属していた研究室のみんなでバーベキューをしたときの写真です。(2018年コロナ前の写真です。)スイーツを持ち寄ってのお茶会(Thursday Tea TimeでTTT)がお気に入りでした。
所属していた研究室のみんなと
写真③私が実験に使用していたフトアゴヒゲトカゲ(Pogona vitticeps)です。写真では伝わりにくいかもしれませんが、睡眠状態に入っている様子です。フトアゴヒゲトカゲにも人間と同じように目をつぶって睡眠をとる時間があります。とはいっても、まだまだ爬虫類の睡眠は分からないことだらけです。ぜひ、一緒に研究してみませんか?
実験に使用していたフトアゴヒゲトカゲ
楽しい気持ちを大切にしながら研究していきたい
鈴木)帰国後の活動について教えてください。
小林)学部を卒業した後も、大学院に進学して引き続き睡眠研究を続けました。
そして、博士課程になってから再びインターン生としてトビタテで留学した研究所に戻りました。
鈴木)博士になってからもう一度行ったんですね!
小林)その時、私が研究で出したデータも論文として発表しようという取り組みが行われました。
鈴木)それはすごいですね!
小林)論文化にあたっては、ラボで論文を発表するためのミーティングに参加したり、データをまとめたり、追加の実験も行いました。
最近、留学先でお世話になったポスドクの方が北海道大学で独立され、爬虫類の睡眠研究を引き続き行っているので留学中にやりたかったテーマを今も続けることが出来ています。今は博士課程の3年生です。
鈴木)睡眠の研究をずっと続けているんですね!
将来の夢を教えてください。
小林)私は、研究活動をする時に、楽しいかどうか、わくわくすることかどうかを大切にしてきました。研究中は、上手くいかないことや分からないことの方が多く、苦しいこともたくさんありますが、研究内容が発展する時はわくわくします。楽しい気持ちがある限りは研究を続けていきたいです。
それから、睡眠の大切さを色々な人に知ってもらいたいです。私自身も、昔は睡眠をないがしろにしていたことがあるんですけどね。実は、すでに依頼があった小中学校へ講演会をしたことがあります。ラボの先生が昔やっていたことでもあるのですが、経験で培ってきた知識をもとに講演会をすることで、みんなにもっと睡眠の大切さを知ってもらいたいです。
編集後記
私も体調が悪い時に色々と調べごとをしていると、人間の体の仕組みって、実はよくわかっていないんことが多いんだ、とびっくりすることがよくあります。睡眠の謎も、是非解明されてほしいです。
今後とも小林さんの活動を応援いたします!
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