第192回:理系のトビタテ生特集 第9弾坪井亜里沙さん【アマゾン河の微生物で世界を救う?!】
2021.10.18
みなさんこんにちは!
大学4期でロシアに留学していたトビタテ事務局インターンの鈴木花穂です!
「理系のトビタテ生特集」という特集で、
理系分野を専門に学びに行っていたトビタテ生にスポットライトを当てて、留学中に学んだことや、その後の活躍をご紹介しております!
そんな特集の第9弾!今回の専門分野は。。。。。
「微生物」です!!
今回は、アマゾン河の微生物を学びにブラジルへ留学した大学4期の坪井さんにインタビューしてみました!
目次
トビタテ!留学JAPANでの留学
坪井亜里沙(つぼいありさ)
大学4期 理系コース
留学テーマ:アマゾン河の微生物で世界を救う?!
地元のために微生物について研究したい
鈴木)坪井さんの専門分野を教えてください。
坪井)アマゾン河を構成する二種類の河の微生物叢(そう)の研究をしていました。
鈴木)その分野に興味を持ったきっかけを教えてください。
坪井)私の出身は福島県で、ちょうど3.11が起きたときに高校を卒業しました。元々生物分野には興味があったのですが、原発事故による地元の風評被害や、放射性物質の話を聞くにつれて、生物の力を使って放射能を取り除く研究がしたいと思うようになりました。
鈴木)地元をなんとかしたいという思いが、その後の研究テーマに影響を与えたんですね!
坪井)そうなんです。とりあえずは微生物を研究しようと思って勉強していたのですが、大学では自分がやりたい分野の研究を行うにあたって限界があると思いました。そこで、大学に在籍しながら理化学研究所に研究生として所属しながら研究していました。
先生に、微生物に関する研究をしたいと言うと、フィールドワークをした方が良いというアドバイスを受け、アマゾン河の調査を行うプロジェクトを紹介してもらいました。
アマゾンには、学部時代から何回も足を運んでいたこともあり、行きたいと思っていたので、現地を訪問することを決意しました。
鈴木)元々アマゾンには興味があったのですか?
坪井)生物学を学ぶ者としては、アマゾンは生物の宝庫であるので、漠然と行きたいな、という気持ちはありました。しかし、自分一人で行ける場所ではないので、なかなか難しかったです。実際に行こうと思えるようになったのは、先生に連れて行ってもらったことが大きいです。
アマゾン河の白い支流と黒い支流の調査
鈴木)現地での研究について教えてください!
坪井)アマゾン河は、ミルクティーみたいな色の白い水と、コーヒーみたいな色の黒い水が混ざってできています。私は、アマゾン河の白い水と黒い水それぞれに生息する二種類の微生物の研究をしていました。
写真①ここは、アマゾン河の白と黒の支流の合流地点で、サンプリングの際にとりました。河幅は雨季には8km、水深60mにもなり、大型の貨物船もよく通り、本当に河なのかと思う規模感です。よくTVでも紹介されているように、黒い河は温度が高く、白い河は温度が低いので私が滞在していたときも、このあたりで泳いでいる観光客がよくいました。
アマゾン河の白い支流(右側)と黒い支流(左側)
鈴木)アマゾン河の名前はよく聞きますが、河の水に白い部分と黒い部分があると聞いて驚きました。
二種類の水の性質はどのように異なるのですか?
坪井)白い水は中性で温度が低く、栄養があります。黒い水は酸性で温度が高く、栄養がありません。
鈴木)水の種類によって、生息する生物に違いはありますか?
坪井)魚についてはあまり詳しく知らないのですが、食用の大型の魚の種類はあまり変わらないのですが、藻やカビの種類は違いました。
黒い河では蚊の幼虫であるボウフラが増えにくく、黒い河の近くに住んでいる住民の方が蚊に刺されないとも聞いたことがあります。
鈴木)微生物の種類が異なるのに、魚の種類があまり変わらないというのは意外でした。研究の結果、二つの河の性質にはどのような違いがあると分かりましたか?
坪井)実は、白い河での実験は上手くいきませんでした。留学での研究レベルではどんな違いがあるか分かりませんでした。
しかし、黒い河での実験は成功して、明らかに黒い河の方が微生物、特に微細藻類が多いことが分かりました。
写真②スコールが降るたびにネットが切れたり停電したり、タランチュラが研究室内に入ってきたり色々面白い事件がありましたが、今ではいい思い出です。皆英語がわからないなりにコミュニケーションをとってくれて、ブラジル人の暖かさに何度も救われました。
アマゾン連邦大学の中にある実験室のメンバーと(坪井さん:左から2番目)
自然との共生について次世代に伝えたい
鈴木)帰国後の活動について教えてください。
坪井)卒業研究では、日本の色々な河とアマゾン河の黒い河の微生物叢の比較を行いました。
卒業後は、大学のベンチャーに就職しました。家畜の腸内細菌叢を調べて、免疫をあげて病気にかかりにくくして薬を減らしたり、死亡率を下げたりする研究をしていました。腸内細菌のおかげでわれわれ生物は食物繊維を分解できているのですが、食べたものが微生物の餌になることで、痩せやすくなったり太りやすくなったり鬱になりにくくなったりするなど、腸内細菌が人間をコントロールできるのではないかという研究があります。
鈴木)腸から健康を目指すというのは、面白い研究ですね!
坪井)人間は、腸内細菌の働きを変えるために食べるものを考えることができますが、家畜は自分で免疫を獲得できません。免疫を獲得させるために薬を大量に摂取した家畜を食べるのはどうなのかと欧州では問題になっています。その職場でも、腸内細菌の働きを良くすることで、家畜の死亡率を下げて効率よく育てることができないかという研究を行っていました。
鈴木)動物を健康にするための腸内細菌の研究もあるんですね。
坪井)今は転職して、バイオ系の企業で遺伝子解析の受託を行っています。具体的には、製薬会社や大学等から来たサンプルの遺伝子や菌叢を調べる仕事をしています。
鈴木)微生物を活かした研究は色々なところで行われているんですね。
坪井)今の企業では、かなり大きな会社から依頼を受けることもあります。生物業界でも流行りの分野です。
最初の就職先でも、転職先でも、学生時代の研究内容と似ていることを研究できています。
鈴木)将来の夢について教えてください。
坪井)私は、昔から自然との共生や共存に興味がありました。アマゾンでの実験では、船の上で実験、解析を行いました。その船では、衣食住ができる設備があったのですが、船の上で排せつをしたり生ゴミを流したりすると、排せつ物やゴミを魚が食べる様子を見ることができて、自然の循環システムが見える状態になっていました。
写真③サンプリングの際に一週間寝泊まりしていた研究所所有のステーションが奥に見えます。ここではシャワーの水は河から吸い上げているのと同時に、トイレの排水も河に流しています。また生ゴミも河に捨てますが魚は河から釣ったものを食べています。究極の循環を目の当たりにした衝撃的な一週間でした。
研究所所有のステーション(奥)
一方、現代社会では、このシステムがほとんど見えない状態になっているな、と思いました。
このような経験を通じて、私は教育や体験を通じて自然の循環の仕組みなど、自然との共生について次の世代について知ってほしいと思うようになりました。現在でも、「マナティ研究所」https://www.manateelab.jp/という一般社団法人のメンバーとして、子供たちへの教育や野生生物の保護のための寄付、ワークショップを行っています。情報社会の現代では、何が正しい情報なのか分からなくなることがよくあります。なので、正しい知識を持つ専門家と子供たちが話したり、ディスカッションしたりしやすい環境を整備しています。
編集後記
坪井さんのお話からは、自然が本当に好きだという思いが伝わってきました。
アマゾンの河には二種類の水が流れていることなど、初めて聞くことが多くて興味深かったです。
今後も坪井さんのご活躍を応援いたします!
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