とまりぎ とまりぎ ートビタテ生の拠り所、トビタテ生の和を作るー

第196回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.1・後編~「常に可能性が広がる生き方を」渡邉洸さん

青山実央【事務局インターン,大学12期】

青山実央【事務局インターン,大学12期】

2021.11.01

 学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
 第1回はドイツに留学した渡邉洸さんのエピソードを前編と後編に渡って紹介します。トビタテでの留学前にIT企業への就職を決めていた渡邉さん。卒業後2年間ソフトウェアエンジニアとして勤務した後に選んだ道はドイツで博士号を取ることでした。渡邉さんがなぜIT企業への就職を決めたのか,そして,社会人となってからドイツへ渡った理由をお聞きしました。後編では仕事の内容や現在のキャリアを選んだ決め手をお送りします。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】

トビタテ生の経歴や留学の話,IT企業へ就職を決めた理由などは「~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.1前編~「常に可能性が広がる生き方を」渡邉洸さん」からご覧ください。

自分なりの正解を見つける過程が大切

― DeNAではどのような仕事をしていたんですか?

 ライブ配信の*サーバーサイドエンジニアをしていました。新卒1年目の頃は全然仕事ができなくて,心が折れる経験をたくさんしていました。大学院で学修していたとはいえ,実務が入ってくるとレベルが全く違っていたんです。
 でも,社会人1年目って学生時代に思っていたことと違ったと感じることはよくあると思います。博士課程に進む学生の進路相談に乗っているときに,「博士課程に進む前に社会人経験を積んでおいたほうがいいのか?」と聞かれることが多いんです。そのとき,自分は社会人になる経験はかなりおすすめだと答えています。そうすると,自分たちが学修しているときと学修している分野が社会で使われるときって違うなと感じると思うんです。そういう両方の側面から学修分野を見てみて,博士課程で勉強すると全然違う視点で研究できると思っています。

*サーバーサイドエンジニア:サーバー側で行う処理に必要なプログラムの開発や,サーバーで扱うデータの管理を行うエンジニアのこと

 

― 実際に働いてみて,学生時代のイメージと違ったと感じた部分はありましたか?

 働き方ですね。DeNAのインターンには行っていなくて,働き方のイメージが湧かなかったんです。なので,そのあたりはギャップを感じました。
 自分が配属された部署には,すごく優秀な方が集まっていたんです。自分でアプリを作っていたり,ベンチャー企業の立ち上げに関わって,有名なサービスを配信している会社まで成長させたりした方がいました。自分は新卒で入ったら,トレーニングさせてくれたり,上司がフォローしてくれたりするのかなと思っていたんです。でも,結構たたき上げのような感じで,出された仕事に対して,自分で考えて完成させていくんです。それで,上司に見せると,「違う」って言われてやり直すといった環境でした。なので,最初は正解が分からなくて,しんどかったです。
 でも,その経験が今,活かされているんです。みんなが正解だと思うことは少なくて,結局自分なりの正解を見つけていく過程が大切だと感じることができるようになりました。優秀な人たちばかりだったので,自分たちがどのように成長してきたのかということを考えながら,指導してくれていたんじゃないかなと思っています。そういうのもある種の優しさだったんじゃないかなと,今では考えています。

 

― 働いていたときに,留学経験が活きているなと感じた場面はありましたか?

 つらいなと思ったときに,「日本はこういうスタイルだよね」と捉えることができていたときは留学経験が活きているなと思いました。視野が広いからとか逃げ道があるからという訳ではなくて,たたき上げの文化は日本独自のものだと分かっていたから,海外では1対1で教えてもらえる環境もあるということを知っていたからだと思います。なので,たまたま今はこういう環境なんだと思うことができました。これがこうっていう1つの考え方に縛られずに,複数の目線で自分の状況を理解できていたことは留学したおかげだと思っています。


社会人となってからもトビタテ生と交流している様子

― 留学経験以外で,働いていたときに役に立った学生時代の経験はありますか?

 *ハッカソンに出たことは社会に出ても役に立ちました。課題に対して,短時間でいろんなことを考えて,社会に役に立ちそうなものだと感じたり,課題にピッタリだと思ったりしたら,アプリにしてみるという経験は役に立っていたと思っています。24時間で完成させるために,エンジニアは寝ずに作業を続けるんです。それが楽しかったです。それに,ハッカソンはアプリを作れなくても出ることができます。エンジニアとチームになって,面白いアイデアを提案したいという理由で出場してもいいんです。プログラミングを専門にしていない方や文系の方などは衝撃的な世界が広がっているかもしれません。でも,そういう自分が縁遠いなと思っている世界に学生時代に飛び込んでいく経験も面白いと思います。ちょっと無理してでも面白いことをしてみたいと思っている人にはおすすめです。
 あとは,ビジネスコンテストに出場した経験も役に立ちました。院生時代に自分が所属した研究室には,ハッカソンやビジネスコンテストに出ている人がたくさんいたんです。そういう人たちに囲まれていくうちに影響を受けて,起業って面白そうって思うようになりました。そこから,自分のキャリアに起業という選択肢が入ってきたと思います。DeNAには退職された後に,起業されている方もいて,そういう部分も自分の考えていたキャリアとマッチしていたかもしれません。

*ハッカソン:ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を合わせて作られた造語。ITエンジニアやデザイナーなどが集まってチームを作り,特定のテーマに対し,決められた期間でアプリやサービスを開発し,その成果を競うイベントのこと。

常に可能性が広がる生き方を

― また,ドイツに行こうと思った理由は何ですか?

 新型コロナウイルスの影響でリモートワークになったときに,自分自身のキャリアについて深く考える時間が増えたんです。例えば,自分が本当にしたいことは何かとか,どんなときに幸せを感じるのかということとか。そうしたら,家でずっと仕事しているし,日本にいる必要があることを今はしていないなと思うようになったんです。それで,日本以外の国でも働けるんじゃないかって考え始めました。そうやって考え始めたら,ずっと海外に行きたいという思いが膨らんできてしまいました。
 そこから,海外に行く選択肢を探していたときに,留学していた当時にメンターをしてくださっていた方が,研究員の枠に空きがでて,研究者を雇うことができるようになったとツイートしているのを見つけたんです。それで,すぐにDMしました。自分が海外に行きたいなと思っていたタイミングで空きがでたのは運命だなと感じたので,ドイツに行くことを決めました。

 

― ドイツでは,また人工知能の研究をされているんですか?

 *EdTechという分野の研究をしています。留学中に研究していた読書体験をサポートするAIの研究もこちらに応用ができています。例えば,物理を学んでいて,文字や数式だけの教科書を見ていてもイメージが浮かばないことがあると思うんです。そういうときに,数式が表している運動を映像として流して,理解を深めることができるようになるんです。子どもたちが勉強を面白いと感じてもらうにはどうしたらいいのかということや,学校現場で働いている人たちをどのように助けることができるのかということを考えながら研究しています。

*EdTech:教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。AIやVRなど先端技術やアプリやデバイスを活用し,疑似体験学習やオンライン学習を提供するビジネス,サービス,スタートアップ起業などの総称のこと。

 

― ドイツ以外の国で研究しよう,働いてみようと考えることはなかったんですか?

 アメリカで働くことは選択肢の中に入れていました。アメリカとドイツは博士課程研究者の給料はそんなに変わらないんですが,アメリカは生活費がドイツよりかかってしまうんです。なので,日常生活を送るということを考えたときに,ドイツの方がいいなと思いました。将来のことを考えて,博士号を取りたいという思いが強かったので,生活面でも安心できるドイツに決めました。アメリカがドイツと同じくらいの生活費で生活できていたら,アメリカを選んでいたと思います。常に自分が知っている世界や文化以外の場所に行ってみたいと思っているので,今後アメリカで働くことも選択肢としてはありだなと思っています。
 トビタテで初めてドイツに来たときは,わからないことが多くて,研究どころではない日もありました。でも,今は2回目のドイツということもあるので,すごく楽で,研究に集中できています。留学したことのある国やインターンしたことのある職場で就職すると,経験もあるし,自分が目標としていることに近づきやすくなるんじゃないかなと思います。海外就職とか考えている人は自分が留学したことのある国を選ぶことも1つの目標に近づく方法なのではないかなと思います。

 

― 今後のキャリアプランはどのようなものを考えていますか?

 いろんなことを考えていますが,ライフステージによるかなと思っています。もしかしたら,結婚するかもしれません。そのときに,日本にいた方がいいのか,海外にいてもいいのかとかはパートナーと一緒に考えて決めていこうと思っています。自分の職業はソフトウェアエンジニアなので,場所は関係なく,どこでもできるということが強みです。自分の知らない世界に行ってみたいと思ったら,アメリカの企業に就職することもあるかもしれません。あとは,ドイツの方との繋がりも増えてきているので,ドイツと日本を繋げられるような事業ができないかということも考えています。
 こんな感じで,いろんな軸で可能性を探っています。常に自分のできることの範囲から少しだけ外のことをするように心がけているんです。そうすると,できることが増えたり,視野が広がったりするんです。そうやって可能性が広がっていくと思っています。なので,今の自分の未来は「就職」や「起業」といった一言では片づけられないと思っています。それに,自分も博士号を取った後にどんな選択をしているのか分からないです。

 

― 前に勤めていた会社に再就職することを考えるときはありますか?

 そこで働いている方と何か一緒にやりたいなと思うことはあります。でも,また就職しようとは今は考えていません。当時は働いていて,自分らしく働ける気がしていませんでした。自分のパフォーマンスを100とすると,40 – 50くらいしか出せていなかったんじゃないかと思います。会社が悪いわけではなくて,自分が会社の方針はこういう風だからと考えていたり,上司の方が考えたことをまずやらきゃと思っていたりしたんです。自然と自分の中で縛りを作っていたのかもしれません。自分が面白いアイデアを持っていたとしても,会社ではできないと思って,一緒に何かできるチャンスを逃していたかもしれないですし,今後,逃してしまうかもと当時は思っていました。なので,これからは自分のやりたいことをやれるようになろうと思っていますし,そういうことができるスキルを身に着けていきたいです。

 

― 学生時代の自分にメッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?

 学部生時代の自分に

 「外の世界をもっと見てほしい」

と伝えたいです。

 学部時代はテコンドーに熱中していた学生でした。なので,あまり外に目を向ける機会も少なくて,考え方が凝り固まっていたんじゃないかなと思います。もったいないなと思う考え方が何個もありました。なので,やってみたことないことをやってみたり,外の世界に足を運んでほしいなと思います。

 

編集後記 ー 直感って意外と当たるのかもしれない ー
 「なんとなくまたドイツに行けるんじゃないかなと思っていました」
DeNAへの就職を決めたきっかけをお話していただいた後に,渡邉さんがおっしゃった言葉です。実際に直感が当たり,ドイツで働いていらっしゃいます。
直感ってそれまでの経験によって生まれるものだと思います。渡邉さんの場合は常に可能性が広がる生き方をしてきたからこその「なんとなく」だったんじゃないかと思います。
「また,自分にもチャンスがくるかもしれない」
そんなチャンスがたくさん生まれるような生き方をしていこうとインタビューを通して感じました。
次回は,スポーツ留学をされたトビタテ生のキャリアをお送りします。

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