とまりぎ とまりぎ ートビタテ生の拠り所、トビタテ生の和を作るー

第205回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.4~「農家の目線に立った農業ロボットを開発したい」乙幡陽太さん

青山実央【事務局インターン,大学12期】

青山実央【事務局インターン,大学12期】

2021.12.08

 学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
 第4回は,大学8期でドイツに留学した乙幡陽太さんです。福祉ロボットを専門に学んでいた乙幡さん。博士課程に進むことを決めていましたが,進学前に休学を決意。現在は実家の農家を手伝いながら,農業ロボットを製作しています。なぜ,博士課程前に休学することを選んだのか,なぜ,農業ロボットの制作を始めたのかなどをお聞きしました。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】

今回のトビタテ生

名前:乙幡陽太
トビタテの期・コース:大学8期・理系,複合・融合系人材コース
留学先:ドイツ
留学テーマ:人間と関わるロボットに関する最先端の知識を学ぶ

修士1年生の時に,ドイツ留学を経験。現在は博士課程を休学し,実家の農家を手伝いながら,クラウドファンディングで資金を集めて,農作業を助けるロボットを開発している。

人間とかかわるロボットに関する最先端の知識を学ぶ

― 留学前はどんなキャリアプランを考えていらっしゃいましたか?

 中学校卒業くらいから,高齢の方や障がいのある方の生活を豊かにする仕事や実家である農家を助ける仕事をしたいと思っていました。
 小さいころから,祖父母と同居していて,高齢の方と接する機会も多かったですし,母は足が悪く,日常生活で苦労する姿を見てきました。父親は農家として,毎日とても忙しそうに畑仕事をしていました。そんな人たちを助けられるものを作りたいと考えていました。
 留学した修士1年生の頃は,リハビリや介護ロボットを開発することを将来の仕事にしたいなと思っていました。なので,博士課程でロボットや人体のこと,障がいのある方の生活をさらに学んで,福祉ロボットの研究をしている企業に入りたいと思っていました。

 

― 留学しようと思ったきっかけはなんですか?

 所属している大学が留学を推奨していたのもありますし,留学から帰ってきた先輩が「留学楽しかった!」と話しているのを聞いて,留学してみたいなと思いました。
 それと,人間と一緒に働くロボットを研究している研究室の雰囲気や,日本以外で自分と同じようなことを勉強している人たちはどんな人なのかということを知りたいと思ったこともきっかけになっています。

 

― 留学中はどんなことをしていたんですか?

 3ヶ月間ドイツで研究活動をしていました。EUのリサイクルロボットプロジェクトの立ち上げに参加して,基礎となる部品の強度シミュレーションをしていました。実際に負荷がかかったときにどのような結果になるのか,シミュレーションと差はないのかということを調べていました。このリサイクルロボットプロジェクトを通して,ドイツのロボット研究者がどのように研究しているのかということを実際に学べました。
 また,ドイツで最大級の福祉機器の国際展示会に参加しました。そこで,日本とドイツの福祉機器の違いを感じました。例えば,日本の車いすはスリムで小さいものが多いですが,ドイツの車いすはフレームが太くがっちりしていて,タイヤにも厚みがありました。この違いは,日本人は小柄な方が多いのに対して,ドイツの方は大柄な方が多いことが要因だと思います。加えて,インフラ面も福祉機器の構造に影響しているということを知りました。日本は舗装してあるきれいな道が多いのですが,ドイツは景観保護の観点から石畳の道が多いんです。車いすなどの福祉機器は軽いと楽だというイメージがあります。でも,実際は使う人の体格や生活圏の環境など,様々な要因を考えながら,福祉機器を作っていくことが大切なんだと学びました。


(写真左:研究室の様子,写真右:福祉機器の国際展示会)

家からでも農業ができるロボット!?

― 留学を経て,自分の将来のキャリアに対する考え方に変化はありましたか?

 福祉ロボットの開発をしたいという思いは留学後も変わりませんでした。でも,働き方や進路に関する考え方は変わったかもしれません。日本だと,ストレートで博士課程に進んだり,就職したりすることがいいという雰囲気があって,自分もそういう風に考えていました。
 でも,留学後は,「ギャップイヤーをとってもいいのかな?」と考えるようになりました。留学中に在籍していた大学で日本人とドイツ人の交流会が開かれたことがあったんです。その時に,出会った日本人の方は30歳まで獣医師として働いて,その年からミュンヘン工科大学で工学系の勉強をしていました。その人の話を聞いて,ストレートに行くことにこだわらなくてもいいんじゃないかなと思うようになりました。

 

― 大学院を休学しようとおもったきっかけは何ですか?

 修士論文を書いているときに,このままだと精神的にきついなと思ったからです。
 やってもやっても「違う」と論文が戻ってくるんです。その状況にすごく疲れてしまったんです。あと10日ほどで新しい年度が始まるというタイミングで,心がポキッと折れてしまいました。それに,親しい人にも「休んだ方がいいんと思う」と言ってもらえたので休学することを決めました。
 結果的に,実家に戻ったことで自分の研究を活かして,実家を助けることができているので,よかったんじゃないかなと思っています。それに,休学中に農業ロボットを作ってみようと思って,新しくプロジェクトを始めるきっかけにもなりました。

 

― 昔から,キャリア選択の1つに農家という選択肢はあったんですか?

 なかったです。昔は,畑に自分がいる姿は想像できませんでした。
 現在は,ベッドの上からでも遠隔操作で農作業を手伝うことができるロボットの製作をしています。なので,農作業ロボットを製作するためにも必要な経験を積めると思い,日々畑で作物のお世話をしています。

 

― 休学中にご実家の農業をお手伝いしようと思った理由はなんですか?

 実家の農業をもっと効率化したいと思ったからです。
 休学して,実家に戻ってきた直後は,それまで挑戦してみたかったプログラミングやアプリ制作をしてみました。それも楽しかったんですが,父親が畑仕事をしている様子をみていたら,「手伝ってみようかな」と思って,手伝うようになったんです。そうしたら,農業ってもっと効率化できると思いました。現在は,自分で野菜を栽培するだけではなく,通信販売やPR,販路の開拓も行っています。

 

― 農業の部分では,具体的にどのようなことをしているんですか?

 普段目にすることのないカラフルな野菜を作って,直売所に出荷しています。
 従来とは違った色のトマト,にんじん,パプリカ,カリフラワー,さつまいも,なすなどをカラフル野菜として販売しています。色によって味が違うのも面白いです。緑のトマトが意外と甘かった時はびっくりしました。カラフル野菜は消費者の方の反応も良くて,「おいしかった」「色がきれい」などの感想をもらえると,とてもうれしくなります。
 他にも,スタンダードではない珍しい野菜を生産していて,*アピオスという野菜の生産にも挑戦しています。親指サイズの芋で,食物繊維が豊富で健康にいいんです。味は,さつまいもとじゃがいもの間くらいでやさしい甘みがあります。
 去年から,オンライン通販での販売も始めていて,アピオスは収穫前にも関わらず,30件ほど注文をいただけて,収穫するのが楽しみです。通信販売を取り入れることによって販売できる場所が増えることはうれしいですし,お客さんの声も聞けるシステムもあって,励みにもなります。


(さまざまな色のにんじん)

*アピオス:インディアンのスタミナの源と言われているマメ科の野菜。ジャガイモと比べ,カルシウムが30倍,鉄分が4倍,繊維が5倍,タンパク質が6倍,エネルギーが2.5倍,加えて,ビタミンEを含んでいて,栄養価の高い野菜である。

 


(アピオス)

― ロボット開発ではどのようなことをしているんですか?

  障がい等があるために外に出られなくても、自宅から畑にあるロボットを遠隔操作して農作業を手伝うことで賃金を得られるシステムをつくっていて、その一環でロボット開発をしています。現在は,スマホ・PCを使って,雑草取りや収穫などをできるようにするロボットの開発をしています。40cm四方ほどの小型サイズにすることで,畑の畝と畝の間を動きやすいことや部品コストが抑えられることも,自分が開発しているロボットの特徴です。
 また,ロボットにマイクとスピーカーを搭載することで,一緒に働いている人と会話ができるようにするつもりです。農家は1人で作業していることも多いので,仕事中に話し相手がいることでより楽しく仕事ができるようになると考えています。
 自分がこのプロジェクトをやろうと思ったのは障害のある方や高齢の方が,家からでもできる仕事の幅を増やしたいと考えたからです。農業というその場にいないとできないと思われている職業を家からできれば,職業選択の幅が広がります。それに,農業って実際に野菜を食べた感想を聞けるなど,消費者との距離が近い仕事だと思います。そういった,人と会話をしながら,楽しく働けたり,人から「ありがとう」と言ってもらえたりする仕事をたくさんの人へ届けたいです。そういった人との関わりを生む仕事を家からできるようになったらいいなと思っています。


(写真左:農業ロボットとご家族,写真右:ロボットのシステムテストの様子)

― そのプロジェクトをやってみようとおもったきっかけはなんですか?

 高齢になったり障がいを持っていたりすると,生活の幅が狭まってしまうなと家族を見て感じていました。また,実際に自分が農業をやってみると,野菜を出荷するまでにも,たくさんの作業があることに気づいたんです。畑を耕して,種をまいて,収穫して,梱包もして,やっと出荷できるんです。これらの作業を全部自分でやっていたら,農業での収益を増やすための商品のPRや販路の開拓に時間をさけなくなってしまうと感じています。農家が収益を増やすための時間を作るため,そして,ハンディキャップを持っている方の活躍の幅を増やせたらいいなと思い,プロジェクトを始めました。
 実際に,プロジェクトの中でも,ロボットを使って収穫した野菜を自分でオンラインでPRして売ってもらうことも目標にしています。買ってもらった人の声も聞けるような環境を作って,一方通行の仕事ではなく,お客さんと相互にコミュニケーションをとりながら仕事ができるものにしたいなと思っています。

 

― ロボット開発をしている中で心がけていることはありますか?

 農家の方が導入しやすい価格で,使いやすいロボットをつくろうと心がけています。価格が高くなると導入するハードルが高くなりますし、せっかく導入していただけたなら使いこなしてもらいたいと思っています。まだまだ畑仕事をロボットに任せようと考えている農家は少ないと思います。でも,そんな農家さんたちにも「ぜひ使ってみたい!」と思っていただけるようなロボットをつくりたいと考えています。

農家は人とのコミュニケーションが生まれる職業

― 実際に農業に関わってみて,大変だなと思うことはありますか?

 自然を相手にしているので,なかなか思うようにいかないところですね。育てている途中で虫に食べられてしまったり,気温が上がらなくて思うように成長しないこともあります。今年の夏は雨が多く日照量が少なかったので、さつまいもの生育があまり良く有りませんでした。収益が自然に左右されるのが農業の大変なところだと思います。そういったことも利益に直結するので,大変だなと思います。

 

― 農業の楽しいと思うところはどこですか?

 自然に触れる機会が多くなって,リラックスできているなと感じることもあります。それに,畑に行くたびに,芽が出ていたり,実をつけていたりと新しい発見があるのもたのしいです。それに,お客さんの感想が自分のところまで届くのも農業のいいところだと思います。食べてくれた方から「カラフル野菜、見た目の綺麗で美味しかったよ」「ありがとう」と声をかけてもらえるととても嬉しくなりますね。

 

― 働いている中で,トビタテで留学してよかったなと思うことはありますか?

 自分の夢を応援してくれる人に出会えたことです。今,進めているプロジェクトも,トビタテ生の友人がクラウドファンディングやってみたいということを言っていて,当時,アイデアを持っていた自分と一緒にプロジェクトを立ち上げました。行動力やアイデア力のある友人に出会えたことはトビタテで留学してよかったなと思いますし,働いている中でも活かされていることなんじゃないかなと思います。

 

― 留学経験以外で役に立っていることはありますか?

 大学の研究室で行ったプレゼンの経験は野菜の販売促進のポップやYouTubeの動画を作る際に役立っていると思います。ポップの見やすさやデザインには,パワーポイントで資料を作った経験が役立ってますし,YouTubeの動画を作るときにはプレゼンのストーリーづくりをした経験が役になっています。学生時代にやっていたプレゼンの経験がこんなところで役に立つのかと驚いています。

 

― 今後実現したいことや夢はなんですか?

 今,開発している遠隔操作ロボットを実現させたいです。クラウドファンディングでたくさんの方に支援していただけたので,早く形にしたいと日々奮闘しています。
 来年度から博士課程に復学するので,3年間は農業ロボットの研究ができます。その間に形にできれば,卒業後も続けていきたいなと思います。
 大きな夢として、将来的には年齢や障がいに関わらず働きたいと思っている人は働くことができるワークスペースを作りたいと思います。そして、ハンディキャップがあっても働くことができる選択肢を増やしていき、どんな人でもやりがいのある仕事ができる社会にしていきたいです。

 

― 学生時代の自分へ向けて,メッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?

  学生しかできないことをやっておけ
 と言いたいですね。例えば、大学の図書館で専門書をたくさん読むことや教授に話を聞きに行くことをオススメします。
 それと,勉強でも座学で学んだことを実際に電子工作するなど実践に落とし込んで理解を深めておけとも伝えたいですね。あとあと苦労するので(笑)

 

編集後記 ー1人じゃないと思える環境ってありがたいー
 コロナ禍となり,リモートワークを経験したことのある方もいいのではないのでしょうか?
私も現在,1人でリモートワークをしています。部屋で1人で作業しながら,たまに,メッセージやZoomでのやり取り……。なんとなく1人で頑張っている気分になります。
そんなときに,人から「ありがとう」と言われるとなんだかグッときます。「感謝されるってこんなにうれしいんだ!」って励みになります。
そんな「ありがとう」が直接聞けることが農業の魅力だと話していた乙幡さん。人と離れたことによって,人のありがたみを再認識している今,人との触れ合いが1つの魅力になっています。その「ありがとう」を部屋からでも届けたいという乙幡さんの思いにとても共感しました。
次回は,食品関係の研究職をキャリアに選んだトビタテ生を紹介します。

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