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第206回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.5~「挑戦し続けてきた経験が自信に繋がる」山下萌さん

青山実央【事務局インターン,大学12期】

青山実央【事務局インターン,大学12期】

2021.12.27

 学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
 第5回は大学10期でオーストラリアに留学した山下萌さんです。研究者になるという夢を持って留学した山下さん。そんな山下さんが経験した留学の様子,留学後に,見つめなおした将来のキャリア,そして,実際に山下さんが選んだ道についてお聞きしました。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】

今回のトビタテ生

名前:山下萌
トビタテの期・コース:大学10期・理系,複合・融合系人材コース
留学先:オーストラリア
留学テーマ:地球規模の食糧問題に挑戦して,農業生産に革命を起こす

大学,大学院時代ともに,農学を専攻し,植物の雑種強勢を専門に研究をしていた。修士1年生の時に半年間オーストラリアへ研究留学をし,大学卒業後は,食品メーカーの研究職として働く。

研究者になる夢を追いかけて

― 留学前はどんなキャリアを考えていましたか?

 そんなにはっきり考えていませんでしたが,研究機関や大学で働くような研究者になりたいなという思いがありました。留学先を研究所に選んだのも,そういった理由からです。それに,留学を決めたきっかけも,研究者になったら日本だけの活動ではなく,海外でも活動することがあるんじゃないかと考えていたからでした。
 実際に私の研究分野で活躍している人たちがどんな生活をしているのか,海外の研究機関はどんな感じなのかということを体験して,私は研究者として働けるのか,それとも,他の道に進むのかということを明らかにしたいなと思っていました。

 

―大学などで働く研究者になろうと思ったのはなぜですか?

 高校生くらいのときに,研究って面白そうだなとか楽しそうだなと思ったのがきっかけです。研究に対する好奇心があって,目指したんじゃないかなと思います。
 農学部を選んだのも,親が観葉植物などの植物が好きで,植物が身近な存在で興味があったからというのと,環境問題や食糧問題にも関心があったからです。

 

― 留学中はどのようなことをしていたんですか?

 首都のキャンベラにある国立研究所に,半年間留学していました。そこでは,大学時代から続けている植物の*雑種強勢の研究をしていました。そこの研究所には,雑種強勢に関する研究の権威ある方がいて,その人の元で研究をして,研究者として必要なスキルを獲得したいと思っていました。また,研究だけではなくて,もっと現地の人と交流を持とうと思い,近くの大学の団体が運営している植樹のボランティアに参加したこともあります。
 半年間の留学でしたが,もう少し長い間留学してみたかったなと思うこともあります。現地の環境になれて,コミュニケーションを取ったり,好きに動けるようになったりしたタイミングがちょうど半年経ったくらいでした。いろいろできるようになってきたし,もっと幅が広げられると思った矢先の帰国だったので,1年くらい留学していたら,もっといろんなことが得られたんじゃないかなと考えることもあります。でも,学生のうちに,海外の国立研究所で研究したという経験ができたことは,とてもよかったです。

*雑種強勢:ある特定の組み合わせの両親を交雑した際に,雑種個体が両親よりも優れた形質を表す現象


(写真左:研究室での1枚,写真右:ボランティアに参加した時の1枚)

研究者ではない道へ

― 留学後に考え方や性格に変化はありましたか?

 自信が持てるようになりました。留学前は,かなりネガティブ思考で,「私は全然できない」と思うことがありました。そういう考え方に無自覚のうちに苦しめられていることが多かったです。
 でも,留学後は積極性も上がって,ポジティブになれました。私自身のことを好きになれたり,自信が持てて強くなれたりするような性格の変化がありました。
 留学中にたくさんの人に接したり,広い世界を体験したりしたことによってこういう変化が起きたんじゃないかなと思っています。それに,そういう風に考えられるようになったことが留学から得た大きな財産なんじゃないかなと考えています。

― 将来のキャリアに対しての考え方の変化はありましたか?

 留学をして,私の将来の道は研究機関や大学の研究者ではないかもしれないなと思い,違う道に進むことにしました。その変化をきっかけに,好きなことや,やりたいことを明確にしていろいろなことを考えるようになりました。
 学生時代は,植物に関する研究をしていました。その研究をやろうと決めたのも,食や,自然環境に関わりたいと思ったからでした。でも,学生時代にやっていた研究をそのまま社会人としてのキャリアで続けたいかと思うとなんとなく違和感を覚えました。
 最終的には、食に直接的に関われる研究をしたいと思って,食品メーカーの研究開発職を選びました。

 

― 研究者の道は違うと思ったきっかけは何ですか?

 留学中に出会った日本人研究者の方の影響かもしれません。
 その方は日本で博士課程を取得して,留学先の研究機関で研究していたんです。でも,お会いして数週間のときにたまたま研究の打ち切りが決まって,研究所をやめることになってしまいました。私は,研究者に対して憧れがあったので,「そんなシビアな世界なんだ」と思って,ちょっと衝撃を受けました。
 その方とお話していたときに,「研究の世界で生きていくのであれば,3食食べることよりも研究が好きっていうくらいの思いじゃないと厳しいよ」とおっしゃっていたんです。そういうことを頭の中では理解しているつもりでしたが,実際に研究者として世界に出ている人から言われると,「私にはここまでできる覚悟はない」と思ってしまったんです。
 それをきっかけに,「本当に研究者として研究を続けていきたいのか」ということを考えるようになったんです。
 それで,もうちょっと直接的に世の中に貢献できたり,世の中と関わりあえたりするようなことしたいなと思ったり,私のやりたいことに対して研究者という形ではなくて別の角度からのアプローチをしてもいいんじゃないかなと思ったりしました。

 

― 今,働いている会社を選んだ決め手は何ですか?

 研究者以外の道を探していたときに,私が作ったものを世界に出したいという思いがあることに気づいたからです。
 最後まで悩みましたが,今の会社だったら,そういう私のやりたいことや思いを実現できるのではないかと思って,入社を決めました。もともと海外とのやり取りのある会社なので,頑張ったら私の作ったものが世界に出ていくことができると思ったんです。最後は,私の思いを信じて決めました。

私が作ったものを世界に 

― 現在はどんな仕事をされているんですか?

 食品メーカーの研究所で研究開発職として働いています。簡単に説明すると,調味料の中にある成分の1つを作る研究をしています。私たちがスーパーで買ったりする調味料を作っているわけではありませんが,その販売されている調味料の中に私が研究している成分が含まれているかもしれません。
 会社の雰囲気もすごく明るくて,働いている人もコミュニケーション能力の高い人が多いです。気さくな方もたくさんいて,ちょっと雑談することもあって,とても働きやすいです。研究所という職場の性質上,外部とのかかわりも少ないからなのか,落ち着ている雰囲気もとても好きです。

 

― 学生時代に研究していた分野とは違う分野の研究をしているんですか?

  全然違う分野です。でも,すごくおもしろいです。大変な部分もありますが,日々勉強していますし、その分すごく刺激的で,楽しい毎日を送っています。

 

― 働いてみて,学生時代のイメージと違うなと感じることはありますか?

 思っていたよりも,研究以外の仕事が多いんだなと感じています。学生時代は,研究だけに集中していればいいという雰囲気がありました。それに,自分で自由に使える時間も多かったです。
 社会人は自由に使える時間が少ないと思っていましたけど,想像以上に時間がなくて,新しい研究テーマを考えたり,自由な発想をしたりすることになかなか時間とれないなと思いました。
 あとは,分業制がしっかりしていて,ものづくりのすべてのことにかかわる機会は少なくて,一部に携わることのほうが多いんだと入社してから改めて感じました。

 

― 反対に,イメージ通りだったと思っていることは何ですか?

 研究の流れは学生時代に経験したものと同じでした。入社する前に,先輩社員の方から,「学生時代の研究をしっかりやっていたらいいよ」とアドバイスをもらっていました。実際に働いてみても,「仮説を立てて,それに対してどういう方法が必要かということを考えて,実験をして,結果が出て,そこから考察する」という研究の流れは一緒でした。

 

― 働いていて,留学経験が活きているなと感じたことはありますか?

 働き始めて,学生時代に経験していなかった研究をしたり,新しい環境で人間関係を築いたりするときには,留学していてよかったなと思いました。
 留学を通じて,新しい分野や世界に飛び込んだときに,どうやって動いたらいいのか,ストレスを感じたときにどのように対処したらいいのかということを学びました。
 留学中も,私以外ほとんど日本人がいないという環境で,着いた初日にネイティブの方にすごい勢いでたくさんのことを言われて焦った経験や,あまり仕事を任せてもらえないという経験もしました。そんなときに,どうやって現状を打破していけばいいのか,どうやって行動したらいいのかということを考えて,留学生活を送っていました。
 社会人になって新しいことに挑戦したときに,そんな経験が活きているなと感じています。

 

― 留学以外で,学生時代に経験して役に立ったなと思うことはなんですか?

 やりたいことに挑戦した経験です。私はいろんなことに挑戦したわけではないんです。でも,興味を持った世界に飛び込んでみるという経験は学生のときにたくさんしておいてよかったなと思っています。
 例えば,学部時代に剣道を始めました。それも,単純に「やってみたい」という思いから始めて,勉強時間がなくなることとか,留学に行けなくなるかもしれないということをあまり深く考えていませんでした。
「これを選んだら,何かができなくなるからやめる」とか「何かを捨てないといけなくなるかもしれない」とか諦める理由や,やらない理由って考え始めたら,たくさんあると思います。それでも,興味を持った世界に飛び込んでみると,みんなからの話とか周りの印象とは違うこともあります。実際に,学部時代に剣道に打ち込んでいましたが,勉強時間も確保できましたし,留学するチャンスも巡ってきました。
 今,振り返ると,やりたいことに挑戦してうまくできた経験は私の自信に繋がっていると思っています。

 

― 今後やってみたいことや,実現したい夢は何ですか?

 海外と関わる仕事をしてみたいと思っています。いつかは,海外に住んで働きたいと考えています。研究でも,自分で新しいテーマを立ち上げて,自分の手で,ものをつくりたいです。これは,社会人になる前から考えていたことなので,実現できるように頑張っていこうと思っています。
 キャリア面以外だったら,学部時代に剣道に打ち込んでいて,全然旅行に行けなかったので,いろんなところに旅行に行きたいなと思っています。あとは,社会人になると運動する機会も減ってしまうので,運動もしたいです。

 

― 学生時代の自分にメッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?

 想像もしなかった場所にいるけど,楽しんでいるから,ポジティブに過ごして欲しいこと。目の前のことの1つ1つに向き合って,乗り越えていけば,大丈夫だということ。最後に、自分のやりたいことを突き通すこと。
 この3つを伝えたいです。
 学生時代は,いろいろなことに対して辛い思いをしながら,向き合っていくことが多かったです。でも,そんなことも楽しんでいたからこそ,自分の想像を超える楽しい場所やキラキラした場所にたどり着くことができたと思います。なので,毎日を楽しめる言葉を送りたいです。

 

編集後記 ーやらない理由を探し続けるのか ー
 「やりたいことに挑戦する」ってなんでこんなに難しいんでしょうか?
私自身,昔は「これ!」と思ったことには突っ走るタイプだったのですが,年齢を重ねるごとに,心地いい場所に収まっていたいと思うようになってきました。
「大学生になったし,将来のことを考えると失敗して,後悔したくない」そんな思いが強くなったのかもしれません。
今回の山下さんは大学生になって剣道を始めたり,社会人になって新しい研究分野に飛び込んでいったりする姿が印象的でした。やらない理由を探すことは簡単だし,諦めることも簡単です。でも,もしかしたら,やろうと決めて一歩踏み出すことも,やめることと同じくらい簡単なのではないかと山下さんのインタビューをしていて感じました。
次回は,農業機器メーカーに就職したトビタテ生のキャリアをお送りします。

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