第208回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.6~「1つのことにとらわれず,たくさんのことに挑戦したい」古川大二郎さん
2022.01.11
学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
第6回は大学8期でドイツに留学した古川大二郎さんです。2度の海外経験をきっかけにトビタテでの留学を決意した古川さん。留学後に選んだキャリアの決め手,働いているなかで気づいた新しい興味,そして,活かされていると感じている学生時代の経験などをお聞きしました。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】
目次
今回のトビタテ生
名前:古川大二郎
トビタテの期・コース:大学8期・理系,複合・融合系人材コース
留学先:ドイツ
留学テーマ:持続可能な農業を発展途上国に届ける
修士課程に在学中に,約1年間,ドイツのホーエンハイム大学に研究留学し,有機農業の流通を扱っている機関でもインターンを経験。卒業後は,農業機械の会社に就職。
持続可能な農業を発展途上国に届ける
― 学生時代や留学前はどのようなキャリアを考えていましたか?
農学部に所属していたこともあって,漠然と食や農業に関わる仕事をしたいなと思っていました。それに,何か技術を教える仕事をしたいとも考えていました。そこから「教育」と「農業」に関わっていきたいと思っていました。
― 留学しようと思ったきっかけは何ですか?
長期で留学してみたいなと思ったことがきっかけです。高校生のときから留学に興味があって,大学選びの基準の1つに「留学のしやすさ」というものも考えていました。それで,トビタテで留学する前の学部時代に2回留学をしていたんです。大学のプログラムで2ヶ月間オーストラリアに滞在し,インフラ整備のボランティアで1ヶ月間フィリピンに滞在していました。この2回の留学で意外と自分も海外で生活もできるんだと自信をつけたので,大学院に進学したら,長期で留学したいという思いが芽生えました。
― どんな留学をされていたんですか?
ホーエンハイム大学院に約1年通っていました。そこでは,授業を受けたり,研究をしたりする学修活動をメインに行っていました。また,大学院での学修のあとに,有機農業で生産された農産物の流通を扱っている団体に住み込みでインターンをしていました。
ドイツというとあまり農業のイメージはない方もいると思います。でも,実はオーガニックの農産物を保護していて,少し値段は高いんですが,消費者に買ってもらえるようなインフラを整えている国として知られています。
― 有機農業に注目したのはなぜですか?
環境を守りながら,農業技術を伝えたいと思ったからです。
フィリピンでホームステイをしていたときに,格差を目の当たりにしたんです。この家の子どもは学校に行けるけど,となりの家の子どもは学校に行けないというように,同じ村でも格差を感じる機会がありました。そういう場合,学校に行けない子どもたちは親の仕事を手伝っていることが多いんです。そのような家庭の親の職業は農業や漁業などの第一次産業に従事していることが多いということも知りました。自分はそういう現状を間近で見たので,そんな格差を少しでも減らすために,農業技術を教えることができたらいいなとは常に思っていました。
でも,大学で勉強していたときに,農業技術は環境に負荷が大きいということを知りました。そのときに,環境を守りながら農業技術を伝えていきたいと思うようになりました。
自分が留学していたドイツは環境を守りながら農業をしている国の1つとして有名で,特にホーエンハイム大学は農業分野ではドイツ内トップレベルの大学でした。
好奇心を引き出す仕事をしたい
― 留学後に,キャリアに対する考え方の変化はありましたか?
変化という変化はあまり感じられませんでした。でも,博士課程に進みたいという思いが強くなったと思います。研究の道に進むことも選択肢にありました。
ただ,出身地である関西に戻らないといけない事情があったので,在籍していた大学での博士課程進学はやめました。それで,関西圏で自分のやりたいことができる農業機械の会社に就職しました。
でも,いずれは博士課程に入学したり,海外で働いたりしてみたいなという思いは今でも残っています。
― 現在,働いていらっしゃる会社を選んだ決め手は何ですか?
農業技術や農業機械を扱っている会社では日本トップレベルで,世界進出も果たしているという点が決め手です。
農業っていろいろな要素が集まっていると思うんです。農薬を扱っている会社,農業施設を建設している会社などいろいろな分野で活躍している会社がたくさんあります。その中でも,農業機械の技術力を1つの指標として考えていました。技術力の高い会社に就職したいと思っていたので,世界レベルの農業技術を持っている今の会社はとても魅力的でした。
― 現在は,どんな仕事をされているんですか?
11月までは本社との別の会社に出向して,技術営業に関する仕事をしています。
その仕事をしてみたいと思ったのも,研究職になって1人で結果を出すということも面白いなと思っていましたが,人に対して行う仕事をしてみたかったからです。
人と何かをする仕事に興味を持ったのも,大学時代に面白いなと思った先生を知るうちにその先生の研究分野に興味を持ったことがあったからです。このことから興味を持たせたり,好奇心を引き出したりすることに関わってみたいと思い始めました。
出向先では,農家の現場で機械のトラブル対応にあたったり,新入社員の研修を担当したり,スマート農業フォーラムに参加して,農家向けに新製品のプレゼンをおこなったりしています。
― 実際に働いてみて,イメージと違うことはありますか?
自分が思っていたよりも,農業技術が進歩していることに驚きました。自動運転のトラクターが開発されていたり,通信技術を活用した農業機械がたくさん開発されていたりして,自分の予想をはるかに超える技術革新に驚きました。
― 反対に,イメージ通りだったことはありますか?
社内の教育もすごくしっかりしていたことはすごく印象に残っています。上司の方の面倒見もすごく良くて,たくさん助けてもらいました。
農業技術の最先端の知識を身に着けることができることもイメージ通りでした。そういうことに関して学ぶ機会もたくさんあります。
1つのことにとらわれず,たくさんのことに挑戦したい
― 人に教えることや,人材育成の分野に興味があるとおっしゃっていましたが,そのようなことを専門にしている職業に就くことは考えなかったんですか?
教員や大学教員にはすごく興味がありますし,最近では,なってみたいと思うようになりました。でも,学生時代には教育にあまり興味はなくて,教員免許とかも持っていないんです。
ただ,社会人になってから,e-learningを使った研修を行って,新入社員からいい感想をもらうこともありました。難しくて理解しにくいことなどをどのように伝えるのかということを考えたり,伝わった瞬間や理解してくれた瞬間を体験したりすることがすごく面白かったんです。教科書通りに何かを教える以外にも,教科書にないことや前例のないことを教えるということがすごく楽しいと思っています。
なので,将来的には,研修担当になって,社内だけではなく,e-leraningを使った教育や自分が授業を設計して,教育に携わっていきたいなと思っています。とにかく,人に教えることを軸に何か新しいことを始めたいです。ドイツでの難民の方との交流やフィリピンでの教育格差の問題を通じて,頑張っている人に対して自分なりに教育の面で助けることができたらいいと思っています。
― 働いていて,留学経験が活きているなと思うことはありますか?
自分で行動する癖がついていることは留学経験が活きているなと思います。
留学していたときは,自分で実戦活動先を見つけてアポイントを取ったり,取りたい授業が取れなかったら,研究所を見学させてもらえるように交渉したり,自分からアクションを起こすことが多かったです。貴重な時間を無駄にしたくないという思いから人に自分の思いをアピールしていました。
社会人になってからも,そういう行動力というのは活かされていると思います。例えば,会社に外部の業者が来て研修を行うときに,後輩の新入社員が分かっていないなと感じたことがありました。なので,そのあと補足の資料を作って渡しました。そうしたら「わかりやすかったです」っていうフィードバックをもらえたんです。そこから,周りの評価も上がって,任せてもらえる仕事も増えました。
自分から行動することや,人を巻き込んで一緒に何かをすることができるようになったのは,留学のおかげだと思っています。
― 留学経験以外で,学生時代に経験しておいてよかったなと思う経験はありますか?
挫折することは学生時代のうちに経験しておいてよかったと思っています。
自分は陸上を中学生の頃からしていました。中学,高校時代は自分が思うように記録が伸びていたんですが,大学生になって,記録が伸びなくなってしまいました。自分ではすごく頑張っていたつもりだったんですけど。
でも,今振り返ると,学生のうちに挫折しておいてよかったと思っています。社会人になってからも失敗したり,挫折したりすることはあります。でも,「学生時代を捧げていた陸上で挫折を経験しているから,なんとかなる」っていう考えを持てて,失敗や挫折に対して耐性がつきました。
― 反対に,学生時代に経験しておきたかったなと思うことはありますか?
修士課程に進む前に,社会経験をしっかり積んでおきたかったなと思っています。
短期のインターンにはたくさん参加していましたが,やはり短期だけでは,実際に働くことに近い経験は詰めませんし,社会人になってから,「こんなことがあるんだ」と思うこともたくさんあります。
自分は6年間で卒業して社会人になりましたが,長期のインターンに参加したり,それこそ休学してインターン生として働いてみたりしたら,より社会のことを深く知ったうえで,研究や進路選択ができたんじゃないかと思っています。
自分がコントロールできない環境で自分の最大限の力をどのように発揮するのかということを考える経験を学生時代に積んでおくことは社会人になって,とても活きてくる経験だと思います。
― 今後実現したいことを教えてください。
いろいろなことをしていきたいと思っています。自分の興味のある「教育」に携わりながら,エンジニアをしてみたり,営業をしてみたり,1つのことにとらわれずに,たくさんのことに挑戦したいと思っています。いろいろな分野でいろいろなことができる人生っていいなと思うので,自分もそんな人生を歩んでみたいです。
あとは,また,ヨーロッパに行きたいと思っています。仕事で行くのか勉強のために行くのかまだ分かりませんが,ヨーロッパで生活したいです。トビタテで留学したときの友人がいることもあります。それに,現地の空気がすごく好きでした。人種や国籍を気にせずに,人を応援できる文化がすごく好きで,自分も多様性の中でいろいろな人を支えあえる社会で生活したいと思っています。
― 学生時代の自分にメッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?
目の前のことを楽しんで
と伝えたいです。
当時は余裕がなくて,大変なこともありました。でも,素直に楽しく生活していたからこそ,今に繋がる経験ができたと思っています。
古川さんは「学生時代に挫折を経験してよかった」とおっしゃっていました。なるべく躓かないように,なるべく失敗しないようにと生きている私にとっては,「そんな経験したら,立ち直れなくなっちゃうよ~」と思いつつも,「社会に出てから,大きな挫折を経験するより,学生のうちに挫折しておいた方が,いいのでは?」とインタビューを通して,思えるようになりました。
キラキラしているトビタテ生にも挫折だと感じることがあるんだと少し親近感が湧きました。
次回は,フランスで人工衛星の研究をしているトビタテ生のキャリアをお送りします。
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