とまりぎ とまりぎ ートビタテ生の拠り所、トビタテ生の和を作るー

第223回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.13~「どんな大人でも子どものロールモデルになれる」眞柄史織さん

青山実央【事務局インターン,大学12期】

青山実央【事務局インターン,大学12期】

2022.03.08

 学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
 第13回は多様性人材コースでフィンランドに留学した眞柄史織さんです。日本の教育に疑問をもったことをきっかけに留学を決意した眞柄さん。留学でフィンランドの教育のリアルを知り,やりたかったことが本当に教育なのかと自問自答した結果,行きついた答えは「地方から教育を変えていくこと」でした。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】

今回のトビタテ生

名前:眞柄史織
トビタテの期・コース:大学11期・多様性人材コース
留学先:フィンランド
留学テーマ:1人1人が個性を活かして学べる教育を目指して

大学在学中にフィンランドに留学。留学前から地方創生や地方活性化の活動をしている。大学卒業後は地方創生を事業にしている 株式会社FoundingBaseへ就職し,山口県で公設塾「mineto」の運営に関わる。

1人1人の可能性を伸ばす教育とは何か

― 留学前から教育関係の仕事に就こうと考えていたんですか?

 教員にはならないだろうと思っていましたが,学校以外の場所で理想とする教育を実現できたらいいなと考えていました。
 高校時代くらいから,日本の教育はどこかおかしいと思っていました。私自身,とても自己肯定感が低く,他の人と比べてしまうことが多かったんです。人と比べるとだいたい私が落ち込むことしかなくて,心のどこかでは,人はそれぞれ違うから比べる必要はないと分かっているのに,比べてしまっていました。
 これは自分の中で小さいころから受けてきた教育の影響が少なからずあって「比べる必要はないと分かっているのに比べてしまう」という思考が植え付けられてしまっているのではないか?と思っていました。
 教育ってそもそも個人の可能性を伸ばすためにあるものなのに,どうして教育を受けてきた私はそんな考え方をしてしまうのか。そんな教育を自分を変えてやるしかないと思って,教育に興味を持ちました。
 進学した学部は教育学部ではなかったので,自分で教職課程を取って学校現場の教育を学んでいました。でも,実際に学んでみると,私は全然教育のことを知らないと痛感しました。なので,教育関係の本を読んだり,日本で面白い教育をしている団体を見に行ったりして,日本の教育について深く知ろうとしていました。

 

― フィンランドに留学しようと思った理由は何ですか?

 フィンランドの1人1人の個性を尊重している教育を自分の目で見てみたいと思ったことがきっかけです。高校の社会の授業で,先生がフィンランド教育のビデオを見せてくれたことがフィンランドとの出会いです。そのときに,大学生になったらフィンランドに留学しようと決めました。なので,志望校を選ぶときもフィンランドに提携校があるのかということも確認していました。

 

― フィンランドではどのような留学をしていたんですか?

 2019年7月から2020年の7月まで大学の教育学部に交換留学をしていました。ですが,2020年の3月ごろには新型コロナウイルスの影響でフィンランドがロックダウンになり,日本の在籍大学から帰国の指示が出ました。でも,私が滞在していた地域はフィンランドの中でも地方で北極圏に近い地域でした。なので,無理に移動するよりも安全なのではないかと思い,日本の大学と交渉して現地に留まることにしました。私自身,途中帰国したくないという思いが強かったので,7月までフィンランドに滞在できてよかったと思っています。
 フィンランドでは,授業を受けるだけではなく,留学先の大学と提携していた小学校と幼稚園に教育実習に行って,フィンランドの教育現場を間近で経験していました。副専攻で「Global Education」という授業を取っていて,担当していた先生とすごく仲良くなって,週に1回ほどその先生の家にお邪魔して,3時間くらい教育について話し合うこともありました。
 生活面でもすごく刺激的な体験がいっぱいありました。フィンランドにはオーロラ予報というものがあってアプリでオーロラが見られるかどうか分かるんです。オーロラが見えそうだなっていう日は大学からの帰りに空を見上げると,緑のオーロラが見えることもありました。オーロラは何回見ても感動します。

― 留学中に特に印象的だった出来事はありますか?

 ロックダウン中でのフィンランド人の過ごし方は印象的でした。たいていの日本人はゲームとか映画鑑賞とか家の中で過ごすと思います。でも,フィンランド人は自分のコテージで悠々自適に過ごしていました。フィンランド人は国民の7割がコテージを持っていて,湖の近くや森の中にサウナが併設されている場合もあります。そこで過ごすんです。
 ロックダウン中にお店や大学が閉鎖したときに,街が閑散として寂しいなと思っていたら,森の中や湖のほとりに行くと,コテージで過ごしている人や釣りをしている人が結構いました。ロックダウンっていうネガティブに捉えられてしまいそうなことも,仕事や大学が休みになったからリフレッシュしようとか,ポジティブに考えて過ごしていることが印象的でした。
 フィンランド人の中に物質主義の考えがあまりないのかもしれません。もともとフィンランドは資源的に乏しい国で,経済もソ連に頼っていた部分大きかったので,ソ連崩壊後には経済危機に陥った時期もありました。フィンランドの南部は都会で日本と同じような生活ができるようになっています。でも,自然と共存して生きるということを重要視して,物質的な豊かさを求めることがフィンランド人の考え方の土台にはあまりないのかもしれません。
 コロナ禍で留学を経験していなかったら,そういうフィンランド人の一面も見ることができていませんし,私自身の留学も後半はオンラインになっていたので,思うような活動はできていませんでした。でも,その分フィンランド人の感性とか文化を知ることができたんじゃないかなと思っています。

留学を経て,自分の将来の道を0から考える

― 留学を経て,将来のキャリアプランについて変化はありましたか?

 留学で視野が広がったことによって,キャリアプランに迷いを感じるようになりました。そもそも私が関わっていきたいのは教育なのかという将来の道から問い直すようになりました。フィンランドで教育に触れて,考えを崩してもらったので,0から考え始めました。 私が情熱を注げるものは何か,何が好きなのか,何を目標にしたら頑張っていけるのかということを1つずつ考えていったときに,やっぱり関わりたいのは教育だと確信しました。
 その中でも,特に地方から教育を変えていきたいという風に強く思うようになりました。留学を通していろいろ悩みましたが,そこを軸に将来のキャリアプランを考えていきたいと思いました。

 

― 留学中のどんな経験が1番眞柄さんにとって影響を与えたと思いますか?

 フィンランドのリアルな教育現場を見たことだと思います。
 留学前はすごくフィンランドの教育に期待していた部分が大きかったんです。なので,フィンランドの教育を学んで,日本にも取り入れられるようになれば,日本の教育はよくなると思っていました。
 でも,実際に学んでみると,フィンランドの教育は私が想像していたよりもいいものではありませんでした。日本にも取り入れたらいいなと思うことはたくさんあります。でも,根本的な考え方はそんなに日本と変わらないんじゃないかと思いました。
 フィンランドは学費がかからないんです。学費がかからないって日本の学生にとってはいい制度だと思われます。でも,フィンランド国内にはずっと学生でいつづけるという選択肢を取る人もいて,制度をきちんと理解して使っていない人もいます。そういうこともフィンランドに留学して初めて知りました。
 そこから,「じゃあ,私が留学に来た意味は何なのか」と考えるようになって「教育とは何なのか」「よりよく生きるとはどういうことなのか」という問いを抱くようになりました。

 

― 地方から教育にアプローチしたいと思った理由は何ですか?

 人との交流や人の温かさのある場所で教育をしたいと思ったからです。
 私は東京生まれで,途中に千葉県に引っ越して,高校生までは都会での生活をしていました。満員電車に乗って通学していると,その電車に乗っている会社員の方や大人がすごく元気がないように見えたんです。どうして人はそんなに大変な思いをしながら,毎日生活しているのかなって思っていました。都会にいると,設備も整っていて,交通網も発達していて,不自由なく生活ができると思います。でも,それは私が選択する前にある程度のものが用意されていて,どこまでいっても誰かが作ったレールの上を歩いていくことになるんじゃないかと思いました。
 私は都会にいるかぎり,本当に私が何かを成し遂げたっていう経験ができないんじゃないかと思い,関東以外の場所に進学すると決意しました。それで,大学は秋田県にある大学に進学しました。
 その秋田県で地域活性化や地域振興の活動をして,その中で子どもたちと関わったり,一緒にプロジェクトを運営したりしていく中で,地域の人たちで一緒に子どもたちを見守って育てる文化や雰囲気がいいなと思ったことと,どんな大人でも子どもたちのロールモデルとなることを秋田県の人たちと関わっていくことで実感して,人の温かさと交流がある場所で教育をすることの可能性を感じました。そこから,地方で教育にアプローチしたいと思うようになりました。

教育への興味の原点は「人への興味」

― 今はどのような仕事をされているんですか?

 株式会社FoundingBase(以下,FoundingBase)という地方創生を事業にしている会社に所属して,今は山口県美祢市で公設塾「mineto」の運営をしています。FoundingBaseは日本全国の自治体と連携して,地方創生の事業を行っていて,その一環として公設塾「mineto」の運営をしています。
 私は塾のスタッフとして,子どもたちと一緒にプロジェクトの運営をしています。毎週土曜日には,美祢市の新たな観光マップを作るプロジェクトを子どもたちと一緒に行っています。子どもたちが美祢市にあるお店の方にインタビューをして,観光マップを作っています。そのプロジェクトの中で地域の大人との出会いを通して,自分のやりたいことを見つけて,好奇心を育めるような体験を子どもたちにしてもらっています。その中では,私はあくまでサポーターという立場で,主人公は子どもたちです。なので,みなさんが想像するような先生とは少し違うかもしれません。

公設塾「mineto」の授業の様子

 

生徒たちとの1枚

― その仕事選んだ理由は何ですか?

 自分のやりたいことができると思ったからです。地方で教育をやりたいという思いはあったんですけど,学力だけではなくて,子どもたちが自分で学んでいく力や好奇心に従って挑戦したり,自分で1歩踏み出したりする力も大事なんじゃないかと思っていました。
 「mineto」は挑戦する力を養ったり,好奇心を刺激したりすることを目的にしていて,私がやりたいと思ったことにぴったりでした。
 FoundingBaseとの出会いは秋田県で地域活性化の活動をしていたときです。秋田県に社員の方がいらっしゃっていて,お話をきいているうちに,自分のやりたいことと似たような活動をしているなと思いました。それで,留学などを経て,FoundingBaseで働こうと思い,今に至ります。

「mineto」のスタッフの皆さんとの1枚

― 実際に働いてみて,イメージと違うと思うことはありますか?

 働くという面ではあまりないです。ですが,生活面だと地域のみなさんが思っていた以上に歓迎してくれて,人柄が温かったです。地方って外から来た人に冷たかったり,風当たりが強かったりするイメージがありました。
 でも,全然そんなことはなくて,美祢市の方は「来てくれてありがとう!一緒に頑張ろう!」と歓迎してくださって,とても感動しました。
 塾の運営でも,地域の方の協力が不可欠なので,そのように歓迎してもらえてとてもうれしかったです。イメージと違うというよりは,期待をはるかに超えていいところでした。

 

― 働いていて,留学経験が活きているなと思うことはありますか?

 直接的に働いていて,何が活きているのかと言われると難しいのですが,フィンランドっていう文化も制度も日本と全然違う国で教育を学んだことによって,考え方の幅が広がったと思います。なので,普段子どもたちと関わるときにも,型にはまらずに関わり方を考えることができていたり,授業を組むときも,日本の学校の授業に沿うだけじゃなくて,フィンランドだったら,こうやって教えていたなって考えて,授業の内容を組めたりします。
 子どもの好奇心や挑戦したいと思う気持ちにアプローチすることは前例のないことで,難しいことなんです。型にとらわれない発想で仕事ができているのは,留学したからなんじゃないかなと思っています。

 

― 留学経験以外で,経験しておいてよかったなと思うことは何ですか?

 興味をもったことに挑戦したことです。学生っていう肩書きはありがたいなと社会人になって思います。大学時代に日本全国の教育機関などに訪問していたときも,「学生で,教育を学んでます!」っていうと関係者とかしか入れないような施設にいれてもらえることもありました。日本は学生に優しいなと思うことが多いので,学生のうちに自分の興味のあることに挑戦していってほしいなと思います。

 

― 今後実現したいことや夢を教えてください。

 2つ実現したいことがあります。1つ目は作家になることです。小説や児童文学,詩を書きたいです。留学で私の土台が壊されて,私は何がやりたかったんだと考えていた過程で,人に興味があるんだって気づきました。その人への興味が教育に向いているんだと思いました。私自身,子どものころから,物語を書くことが好きでした。私の書いた作品を見てみると,人の感情にフォーカスした作品が多かったんです。やっぱり人に惹かれるんだと思ったら,また,執筆活動をしてみたいと思いました。実は今も細々と書き続けています。
 2つ目は,自給自足の暮らしをすることです。私の原点が都会での暮らしに疑問を感じたということなので,秋田県の大学に進学して,就職では山口県にきました。フィンランドに行ったときも,秋田県や山口県以上に自然に根付いた生活をしていました。人間の源を辿ると,最初は自給自足から始まって,それだと効率的じゃないし,楽に生きて行くために,役割分担が始まって,その先に,貨幣経済や資本主義経済が始まっていくと思います。でも,私たちはいきなり資本主義社会のなかで生きていくことになっていて,社会の仕組みがなんでそうなっているのかということに疑問を持つ時間もないと思います。そこで,私自身が自給自足の生活をして,今の社会の仕組みの意味や価値を探していきたいと思っています。きっと,自給自足の生活を経たら,スーパーのありがたさも増すと思うんです。そういう当たり前の生活のありがたさを実感したいです。

 

― 最後に,学生時代の自分にメッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?

 とりあえず直感的にこれだと思ったことには飛び込め!

と伝えたいです。
 そのときは,全体像が見えていなくて,不安だと思うんですけど,いずれはその点が線になるときがくるので,学生時代は点を増やすことをたくさんしてほしいと思います。

 

編集後記 ー自分は自分でいいと思えるようにー
 「人と比べるとだいたい私が落ち込むことしかなくて,心のどこかでは,人はそれぞれ違うから比べる必要はないと分かっているんです。それでも,比べてしまっていました」
共感です。私もSNSとかで友人の様子を見て,「あ~あの人に比べて私は……」思うことなんてしょっちゅうです。Facebookもトビタテ生の活躍が目に入ってしまい,見るときを間違えたと落ち込むこともあります。
自分は自分だからいいの!って思う勇気ってどこから手に入れるんでしょうか?きっと,自分に自信が持てるような経験,それこそ,挑戦して自分のやりたいことを実現した経験とかが大事なんじゃないかとインタビューを通して感じました。
次回は,デンマークに留学後,保険会社に就職されたトビタテ生のキャリアを紹介します。

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