とまりぎ とまりぎ ートビタテ生の拠り所、トビタテ生の和を作るー

第225回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol.15~「人間の進化のために技術を扱う自分たちはどんな貢献ができるのか」安田洋介さん

青山実央【事務局インターン,大学12期】

青山実央【事務局インターン,大学12期】

2022.04.05

 学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
 第15回は大学3期でアメリカに留学した安田洋介さんです。刺激のある経験を求めて,留学を決意した安田さん。シリコンバレーのスタートアップでの経験を通してついた「世界でも戦える」という自信。その自信と尊敬しあえる仲間との出会いをきっかけに安田さんは起業しました。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】

今回のトビタテ生

名前:安田洋介
トビタテの期・コース:大学3期・自然科学系,複合・融合系人材コース
留学先:アメリカ
留学テーマ:東京大学の学生プログラマーがシリコンバレーのスタートアップで百戦錬磨の仲間と戦えるようになるまで

東京大学4年生のときに,1年間アメリカのシリコンバレーでのスタートアップ企業にデータサイエンティストとして関わる。大学卒業後の半年間はリモートで勤務を続け,その後,東京大学在学時の友人とともに,株式会社Algoageを設立。2020年2月に合同会社DMM.comと資本業務提携を行い,グループ会社となる。

学生プログラマーがシリコンバレーのスタートアップへ

― 留学前から起業したいと思っていたんですか?

 留学前から起業に興味はありました。きっかけは,大学1年生のときに*AIESECという学生の海外インターンシップの手助けをするサークルに入って,ソーシャルビジネスをテーマにしたプロジェクトチームに所属したことです。そこでビジネスを通じて,どう社会を良くしていくのかということについて興味を持ちました。
 大学入学当時は,特別,将来どういう仕事をするかのイメージはありませんでした。ですが,AIESECで活動していく中で,ビジネスを通じて,大きな社会インパクトを起こすことに強く惹かれました。また、ビジネスで勝負するにあたり,1番チャレンジングな選択は自分で起業することだと思い起業を視野に入れ始めました。東京大学を目指した理由でもあるのですが,とりあえず1番チャレンジングな選択肢を向いていれば,路線変更がしやすいだろうとも思っていました。

*AIESEC:海外ボランティアや海外ボランティアプログラムなどの主観事業を通じて,世界中の若者のリーダーシップを育むことを目指しているグローバルプラットフォーム

 

― 留学しようと思ったきっかけは何ですか?

 これといった出来事がきっかけになったわけではないのです。(笑)育った環境の影響もあり,外に外に出たがる性格であるため,高校生活の後半くらいから,自然と留学は選択肢として考えていました。出身地は北海道の田舎で,最寄りの駅まで車で峠を超えて2時間かかるような環境でした。そういう狭い環境で過ごしていたこともあって,刺激がほしいと思うことが多かったです。なので,高校では地元を出て,近くの中都会である函館の高校に進学しました。大学進学を機に本州へ行こうと思って,1浪して,東京大学に進学しました。
 そんな感じで,どんどん外に出たいっていう気持ちがすぐ芽生える性格なんです。これまで,外に出ることで世界が広がり,自分が成長してきた原体験が理由かもしれません。なので,東京に進学したんだから,次は海外だという気持ちが大学生活を通じて強くなったんだと思います。もともと,浪人したときに「浪人したし,海外の大学に進学するのもありなのではないか?」と思い,海外の大学に進学することも視野に入れていました。ですが,親に心配されて,自分でも「さすがに東京で生活したこともないのに,いきなり海外はハードル高いか」と思い直して,東京大学に進学しました。少し,海外進学の選択肢を取ってたらどうなっていたか、知れるなら知りたいですね。(笑)
  具体的にその海外に出たいという思いが,トビタテによって現実的なものになりました。当時,起業を目指していたこともあって,自分で何かものが作れるようにとプログラミングを学んでいました。シリコンバレーは最先端技術をビジネスにしている企業がたくさんあり,憧れていました。そんなシリコンバレーで起業のことやプログラミングを学んでいたいという思いはありつつも,物価は高いですし,留学費用もかかります。その費用をどうやって工面しようかと思っていたときに,トビタテと出会って,シリコンバレーへの留学プランをぶつけてみようと決めました。思い返すと思いだけ伝えて,具体は詰まってないプランだったんですが。(笑)受け入れてくれたトビタテには感謝しきれないです。

 

― アメリカではどんな留学生活を送っていたんですか?

 10ヶ月間,語学学校に所属しながら,シリコンバレーのスタートアップでエンジニアとして参画していました。
 実は,トビタテの審査のときはプログラマーとして経験を積むための受け入れ先が決まっていなかったんです。「現地で探します」って面接のときに伝えて,それでも採用してもらえました。なので,元からこの会社に行くということは決めていませんでした。
 振り返ると,本当にラッキーなのですが,アメリカに渡って仕事先を探していたときに,同期のトビタテ生から起業準備中の知人を紹介してもらえて,その方のスタートアップに参画しました。こういった紹介もトビタテのおかげなので,本当にお世話になりました。

一緒に働いていたみなさんの写真

― どのようなことをされたんですか?

 当時,自分が5人目として参画だったので,かなり幅広く携わりましたね。主にアプリケーションの機能開発をしたり,大学で機械学習と呼ばれるAIの一領域を専攻していたので,その技術開発も担当したりしていました。他にも,デザインの議論やそもそも特定の機能を開発すべきかどうかなど,プロダクトの方針に関する議論,資金調達関連の議論,広報記事の作成など,ものすごく多くのことに関わり,様々な経験を積みました。
 技術面以外にも,私が開発を担っていた*自然言語処理技術をしたいネイティブの顧客とのミーティングに同席して,機能面の議論を通しての商談も経験しました。

*自然言語処理:文章を定量的に扱うための技術領域。アンケートの自由記述やコールセンターへの問い合わせ内容,TwitterなどSNSでのクチコミ分析といった分野で活用されている

ナパでのプログラミング中の様子

自分は世界でも戦っていける

― 留学を経て,将来のキャリアに対する考え方の変化はありましたか?

 起業に対する思いはかなり強くなったと思います。身近で起業フェーズを最先端のシリコンバレーで経験することによって,自分でも挑戦できそうという自信がつきました。日本にいながら,シリコンバレーの情報を得ていると,最先端の研究をGoogleなどの大きな企業が実用化しているようなすごい場所では,自分の力は及ばないんじゃないかと弱気に考えてしまっていたところがあったんです。
 留学前の自分は、世界基準から考えると遅れていて,まだまだ成長を目指して行動しなければ起業で成功できないと焦っていたと思います。でも,留学をしてみて,自分もシリコンバレーで通用するんだと実感しましたし,自分の立ち位置が世界的な規模で分かりました。そのうえで,自分が何をするのが1番最適なのかということを考えて,日本で起業して成功することが,現実的でベストな選択肢だという思いに至りました。

 

― 留学を通じて感じたシリコンバレーと日本との違いはありましたか?

 専門性を持ったプロフェッショナルたちがアイデアを流動的に交換していたところだと思います。いろいろな分野で博士号を持っているような人が週末にサーフボードを作っているプロジェクトを見かけたことがありました。最先端の知識を持っている人たちが遊び心を持って「これをやったら面白いよね」とか「これがあったら便利だよね」と自由に議論しながら,ものを作っていくっていう文化がとても魅力的に感じたんです。日本でもそういうことができる会社を作りたいと思いました。そういう思いも起業に繋がっています。

 

― いつ頃に起業されたんですか?

 大学卒業後に起業をしました。留学後にもリモートで,留学時の受け入れ先会社で開発を続けていました。卒業後にも続けていましたが,やっていた仕事は自分が大学での研究で注力していた*Deep Learningと呼ばれる技術とは少しずれていたことと,当時からその分野が伸び始めていたということもあって,自分の強みを活かして起業した方がチャンスも増えるし,自分が力を発揮できる場面が増えるのではないかと思い,起業しました。
 自分が所属していた専攻は学生の大半が大学院へ進学することもあり,起業する前に,大学院に進学することを考えていたときもありました。進学して研究しながら,起業することもできたと思いますが,どちらも中途半端になることは嫌でした。最終的には,他社と共同研究開発をし,実用化するというビジネスモデルを設計できたので,研究的な活動を続けつつ,起業することができました。

*Deep Learning:深層学習。充分なデータ量があれば,人間の力なしに機械が自動的にデータから特徴を抽出してくれるディープニュートラルネットワーク(DNN)を用いた学習のこと

 

― 安田さんはどのような会社を設立されたんですか?

 さまざま業種で個々のニーズに合わせてAIを活用し,企業の業務をサポートすることをメインに行う会社を設立しました。そこから,さらに開発したサービスを汎用的に用いられるようにし,それらを売ってビジネス規模を拡大していくことを目指していました。個々のニーズに合わせてシステムを作りますが,同じようなニーズを持っている会社はほかにもあります。そのようにどんな会社でも使えるようにサービスを拡大していきました。
 今はLINEのChatbotを使って,商品やサービスのセールスを行うサービスを主な事業にしています。サービスを開始してまだ半年も経っていないですが,かなり強いニーズに刺さっている手応えがあるので,そのサービスに注力して事業を行っています。

株式会社Algoageの共同経営者の方と社員のみなさんとの1枚

― 会社内では安田さんはどのような仕事をされているんですか?

 立ち上げのときは最高経営責任者であるCEOでした。当時は自分と共同経営者の2人しかいなかったので,経理などの業務も自分で行っていました。
 今となっては,社員も増えてきて、業務がうまく分業できる体制が整いつつある中で、主に私が開発の舵を取ったほうが良さそうだと考え,最高開発責任者であるCTOとなりました。創業当時はCEOでしたが,共同経営者にCEOになってもらい,開発に専念しています。Chatbotの制御システムやデータ収集、解析のシステムを開発する責任者です。

 

― 共同経営者の方とはもともとご友人だったんですか?

 大学1年生の頃のクラスメイトで,その後に選んだ専攻も同じでした。プログラマーのインターン経験があったり,AI分野の研究をしていたりして,インターン先や研究室は違ったんですが,共通点も多かったんです。そんな彼と交流していくうちに「就職するより起業した方が確実に面白そうだよね」という話になりました。お互いに実力を認め合えている仲だったので,2人が同じタイミングで起業したいと思っているなら,起業した方が絶対良いなと思い,起業を決意しました。

 

― 会社を経営していくなかで,大変だった経験はありますか?

 AIの開発はやってみないと成果が分からないんです。大量のデータの用意と実験を繰り返して,ようやくうまくいく,いかないということが分かるんです。なので,納期ぎりぎりまでうまくいかないこともあります。結果的には,ギリギリまで粘って,いいサービスが完成して,ちゃんと提供できるんですけど,そういうハラハラする体験もあります。
 創業期は社員もそんなにいなかったので,プロジェクトも佳境なのに,レシート整理をして,経理のこともやらないといけないっていう状況もありました。立ち上げて1年目のころは,右も左もよくわからない状況でなんとかこなしていました。
 大変でしたが,その大変さも面白いと感じていました。開発などの技術面以外にも広く浅くいろいろなことを知ることができてよかったです。そういった幅広いことを知りたいという思いも起業した理由の1つでもあるので。

 

― 現在は合同会社DMM.com(以下DMM)と資本業務提携をしていると伺いました。

 DMMのCTOの方が親しかった大学の同期と知り合いだったことをきっかけにして,業務提携をしました。もともと自分たちの会社で作っていたシステムがゲームの分野で活用できるのではないかと考えていて,DMM GAMESで活用できないか話をさせてほしいと同期にお願いをしたら,話す場を設けてくれたんです。その話を進めていくうちに,DMMグループで一緒にやらないかと誘ってくださって,グループ化に至りました。
 AIの活用はもともとデータを持っていて,事業的に拡大できる会社と一緒に仕事をしないと,うまく立ち上がらないと経験してきた中で感じていました。DMMは幅広い事業展開をしていますし,グループ会社のマネジメント経験も豊富なことなどによる安心感もあって,DMMと資本業務提携をすることにしました。

合同会社DMM.comとの資本業務提携時の1枚

人間の進化のために技術を扱う自分たちはどんな貢献ができるのか

― 会社を経営されている中で,留学経験が活かされているなと思うことはありましたか?

 英語ができるようになったのはすごくよかったです。採用活動のときに,英語での技術面接をする場合もありますし,海外の会社と話すときも,コミュニケーションに困りません。留学に行っていなかったら,英語を使うことに対して,ハードルが高かったと思うので,留学してよかったと思っています。
 あとは,会社経営をするときに必要なチームビルディングやマネジメントはシリコンバレーでのシステム開発に参画した経験がすごく役に立っています。最先端の技術を体験したということも,もちろんいい経験でしたが,留学中にスタートアップの企業で一緒に何かを制作するという経験や,そのときの成長が今の糧になっていると思います。

 

― 留学経験以外で学生時代に経験しておいてよかったなと思っていることは何ですか?

 リーダー経験を積んでおくことは大事だと思います。中学高校時代はサッカー部のキャプテンでしたし,大学に入学してからも,国際学生会議という活動の実行委員長をしていました。
 実際にリーダーになってみると,リーダーとしてどういうことをしなくてはならないのか,反対にリーダーがうまく立ち回らないと組織はどうなるのか,全体のアウトプットはどうなるのかということを身をもって分かります。振り返ると,反省することはたくさんあるんですが,その分成長したと思います。会社をやっていてもとても役に立っていると実感しています。

 

― 今後実現したいこと,やってみたいことは何ですか?

 かなり突飛ですが,子育てをしたいです。(笑)実はかなり前から早く子育てしたいなと思っていて,大学入学くらいにはどういう状況になれば子育てできるか,そのために早く稼いで,子育てにコミットできるようにする必要があると思っていたというのも実は起業やプログラミングを始めた背景にあったりします。(笑)自分の人生の中で重要なことは何かって考えると,学生時代では勉強や部活がメインで,20代では仕事がメインになって,30代くらいから子育てなんじゃないかと昔から考えていました。また,自分も今年で30歳になる年なのですが,仕事以外でも長期的に,新鮮でやりがいのあることをしたいなと思うと,子育てが1番フィットしそうだと思っています。
 あとは,いつになるかはわからないですが,どこかで研究をもう1度しっかりやりたいです。ビジネスと研究って被る部分もありますが,考える時間のスパンとかどういう課題に取り組んで,それがどのような評価をされるのかということなどは全然違います。なので,研究の世界でも成果を出すことも人生の中でやってみたいと思っています。
 それに,これもそのうち余力ができたらですが,世界各地に住んで,住み心地のいいところを探したいです。性格的にも,今いるところが最適じゃないのでという思いが強いんです。日本に生まれたから,日本にいるだけなのではないかって思うときがあるんです。シリコンバレーに留学した時にも,いいところだなと感じた経験もあって,どこが自分にとって合うのかということを探したいです。
 中長期的な1人のエンジニア経営者としてのミッションは,人間の進化のために技術を扱う自分たちがどんな貢献ができるのかということです。自分の中で技術,広く捉えると道具が人間を進化させてきたと思っています。人間は道具,技術によって,拡張され,進化してきたという考えが自分の中ではしっくりきます。そして,特にここ最近ではコンピュータやスマホが人間を1番進化させてきたと思っていて,これからしばらくの間はそれが続くと思っています。人間が正しくあるべき姿に進化していけるのかということは,人間がいかにソフトウェアテクノロジーをちゃんと活用できるのかということにかかっていると思います。技術の進化に対して,悲観的な見方と楽観的な見方もあって,議論が分かれるところではありますし,正解や結果は誰にも分かりません。そして,それらは人間の行動が決めていくことだと思います。なので,より良い社会に進化させていくためには,人間がどうやって技術を使っていくのかということが重要なパートを担っていると思っています。そこに対してどんな貢献ができるのかということを考えていきます。
 それは株式会社Algoageを経営していることにも繋がっています。自分の会社は技術を使っていかに人間がよりよい意思決定ができるのか,どのようにしてスムーズな体験を実現するのかということに対してサービスを作っているので,今後もそのような方向性で頑張っていきたいと思っています。

 

― 最後に,学生時代の自分にメッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?

 好奇心を大切にして,それに従って生きるといいよ

 と伝えます。

 面白そうと思う心のアンテナは人生における後悔を出来るだけ少なくするにあたって,かなり精度が良いと思っているので。
 ただ、自分の学生時代は実際それを行っていて基本悔いはないので,そのままでいいよということになりますね。(笑)

 

編集後記 ー リーダー経験はリーダーになるためだけのものなのか ー
 今回は,起業家の方にインタビューをしました。特に安田さんのインタビューの中で印象に残ったことは,「リーダー経験を積んでおくこと」です。私は組織の中でリーダーになったことはありません。ですが,今後の人生で組織に所属することは避けられないと思っています。リーダーによって組織が変わる,そのとき,変わっていく組織に自分がついていけるのかどうかという面でもリーダー経験は役に立つのではないかと思いました。
次回は,フィンランドと台湾に留学したトビタテ生のキャリアを紹介します。

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