とまりぎ とまりぎ ートビタテ生の拠り所、トビタテ生の和を作るー

第228回:~社会人トビタテ生の留学する前と後特集 vol. 17~「留学で見つけた私の本当にやりたいこと」長澤良子さん

青山実央【事務局インターン,大学12期】

青山実央【事務局インターン,大学12期】

2022.04.19

 学生時代にトビタテで留学した社会人を取り上げて,現在のキャリア選択のきっかけや「留学」がその後の人生にどのような影響を与えたのか紹介する「社会人トビタテ生の留学する前と後」特集。
 第17回は大学5期でカナダに留学した長澤良子さんです。放射線技師を目指していた長澤さんが留学で学んでいたのは緩和ケア。せっかく留学するのであれば,大学では学べないことを学びたいとカナダへ渡りました。そして,カナダで出会った友人をきっかけに長澤さんの将来のキャリアへの変化が訪れました。
【インタビュアー:青山実央(事務局インターン,大学12期)】

今回のトビタテ生

名前:長澤良子
トビタテの期・コース:大学5期・理系,複合・融合系人材コース
留学先:カナダ
留学テーマ:緩和ケア先進国カナダで緩和ケアを学ぶ

放射線技術科学を専攻し,大学3年次に8ヶ月間カナダのトロントに留学。大学卒業後は大学院に進学し,放射線技師としての経験を積みながら研究を続ける。大学院修了後は,放射線医療機器メーカーに就職。現在,社会人2年目。

留学での出会いが今後の人生を変えた

― 放射線技術科学専攻に在学されていたとのことですが,放射線技師を目指された経緯は何ですか?

 大学を選ぶとき,せっかく勉強するのであれば,将来のキャリアの助けになるものを身に着けたいと思いました。どんな分野を勉強しようかと考えていたときに,父親が倒れて病院にお世話になり,医療職に興味を持ちました。
 放射線技師になろうと思ったのは,がんの放射線治療に携われるからです。幼い頃から母の胃には良性ポリープがあるのですが,母はそれを「がんの子供」と表現し,私は幼いながらにとても不安に感じていました.それ以降,私にとってがんは他人事ではなくなり,その人たちの助けになれる放射線技師の仕事を選びました。

 

― 留学しようと思ったきっかけは何ですか?

 外国の文化に触れてみたいと思ったことがきっかけです。高校時代は,実家で留学生受け入れたり,中学時代はクラスにいた留学生と仲よくしたりしていました。英語も話せるようになりたい,もっと異文化にも触れてみたい,アメリカンカルチャーを経験したいっていう気持ちが留学したいと思った原点です。
 そのため,大学入学当初から留学はしてみたかったのですが,ただ語学を学ぶだけではもったいないという気持ちがありました。自分が何を学びたいのか,色々考えていたときに大学の講義で日本の緩和ケアが遅れをとっていることを知りました.
 放射線治療は数週間に渡って毎日行われるので,CTやMRIの検査とは異なり,患者さんと一定期間関わりを持ち続けます。しかし,放射線専攻の学生は患者さんに対するケアやコミュニケーションについてはほとんど学ばないんです。そのことに私は疑問を感じていて,一時は日本のホスピスでボランティアをしてみたりしました。ですが,講義で教授が言っていた通り,それを緩和ケアといい,これが患者さんが求めているケアだとは思えず,緩和ケア発祥の地であるカナダで学ぶことを決めました。

 

*緩和ケア:生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族に対して,痛みやその他の身体的・心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確な治療・処置を行うことによって,苦しみを予防し,和らげることで,QOLを改善するアプローチである

 

― どのような留学生活を送っていたんですか?

 8ヶ月間,カナダのトロントにあるホスピスで実習をしていました。ボランティア留学をしていましたが,ホスピスで活動するためには,オンタリオ州の認定が必要でした。そのテストに合格するための座学やディスカッション,実習などの講義を受けて,合格後には,実際にホスピスで看護師さんのお手伝いをしたり,患者さんのケアをしていました。
 私は学部3年生のときに留学していましたが,実際の病名や詳しい症状,患者さんの使用している機械の用途などは全くわかりませんでした。まだ病院での実習もしたことがなかったので,知っているのは独学で学んだ緩和ケアの歴史や概念,日本のホスピス事情くらいでした。
 なので,認定を得るための講義を2周しました。1周講義を受講した後に,理解できていないことが多すぎて「これは勉強になっていない!」と不安になったんです。講義を担当してくださっていた方も,「そんなにやる気があるのね!」と驚いていました。


― 一緒に実習を受けている方は看護師を目指している方が多かったんですか?

 そうですね。看護系の学部で勉強している方が多かったです。それに,カナダでの医学部受験では医療施設でのボランティア経験も重視されるらしく,医師を目指している方もいました。あとは,家族が緩和ケアを受けた経験から,自分も勉強したいという思いを持って参加されている方もいました。
 私と同じ放射線分野の方はいませんでしたが,海外で医療に携わりたいと思っている方々に出会えたことはとても刺激的でした。

実習最終日に撮った看護師さんとボランティアの皆さんとの1枚

― 留学中に印象的な出来事はありましたか?

 看護師を目指していた女の子との出会いは私のその後の人生を変えたと思っています。実習先で仲良くなって,よく一緒に遊んでいました。その子はカナダ人ではなかったんですけど,私は特に気にしていませんでした。ですが,私の留学が終盤になって,その子が難民登録をしてカナダに来たことを知ったんです。
 その子は別に難民であることを隠していたわけではなくて,出会ったころに,私が英語をあまり理解できていなくて,分からなかっただけだと思います。難民であったことにとても驚いたんですが,話を聞くと,たった1人でカナダに渡って,看護師になるために勉強していると言っていました。その子にはフィアンセがいたんですけど,その方はフランスで難民登録していて,離れ離れの国で長い間会えないままお互いに頑張っていました。
 私の中で彼女の話はすごく衝撃的で,そんな大変な経験をしているのかと思いました。そして,今の自分には何も力になれない虚しさや,社会問題に目を向けてこなかった自分に対して呆れや怒りのような感情が湧いてきました。そこから,国際社会が抱える問題について学び,帰国後は学生団体で勉強会を開く活動などもはじめました.
 そういった経験を通して,わたしは放射線治療がしたいんじゃなくて,生まれた土地や性別,病気などその人にはどうしようもないことが原因で不自由を感じていたり,自分のやりたいことができない人の支えるような何かがしたかったんだと気がつきました。

より多くの人を救える世界を目指して

― そこから,放射線技師とは違うキャリアを考えられたんですね。

 そうですね。大学院の2年間は大学病院で放射線技師としても働いていましたが,その後,卒業とともに技師を辞めました。
 現在は,放射線医療機器のメーカーで海外マーケティングの仕事をしています。
 この仕事を選んだ決め手は,自分が大学で学んだ知識が活かせると思ったから,そして,医療を多くの人に届けられると思ったからです。
 放射線医療機器は技術面だけでなく,管理面なども含めて取り扱いがすごく難しいんです。法規的にもたくさんのルールがあります。それにすごく高額で途上国にとっては導入しにくい医療機器でもあります。ですが,その装置が新しく地域に1つに入ることで,医療水準が大きく向上します。
 私には大学院で学んだ先端医療に関する知識や病院スタッフとしての経験があり,その知識と経験を活かして,放射線医療機器を広めていけるのではないかと思いました.導入しにくい地域や国にも導入できるような道筋を作って,医療水準の向上に貢献したいと考えています。

放射線技術として働いていたときの1枚

― 具体的にはどのようなお仕事をされているんですか?

 現在は北米地域のマーケティング&プロモーションを担当しています。将来的にはアジアやアフリカなどの新興国地域を担当したいと思っていますが,現在は先進国の医療トレンドやビジネススキルを一から学ぶため,北米地域の担当を任されています。
 医療機器にも洋服のようにトレンドがあります。最近だとAIを取り入れた画像診断など最新の研究を取り入れた機器がどんどん開発されています。それに,同じ先進国でも病院ごとのニーズや検査の仕方,治療方法は異なるため,各地域に適した製品ラインナップを検討したり,装置や機能の訴求ポイントを検討しています。

 

― 職場には長澤さんのように放射線技師の資格を持った方が多いんですか?

 そうですね。職場にも私と同じように放射線技師の資格を持っている方はたくさんいます。どんな検査が求められているのか,どんな機能をどのように普及させていくのかということを考えるときにも放射線技師の資格は役に立ちます。それに,新しい機器の使い方を教えるのにも資格があるとより細かいところまで教えることができます。一方で,医療とは関係ない分野の知識を持った方もたくさんいます。
 医療系の資格を持っている方は病院スタッフや研究員として働く道を選ばれると思っている方も多いかもしれませんが,私のように一般企業に就職して医療を助けたり,全く違う分野で活躍している方もたくさんいるかと思います。

 

― 放射線技師として働きたいという思いはありますか?

 今のところは考えていません。医療環境をよくする,医療へのアクセスを向上させることが私の最終的な目標です。患者さん1人1人と向き合い,直接医療を提供するとも重要なことではありますが,私の目標とは異なると考えています。医療水準を向上させて,より多くの人を救うことができるような世界をつくりたいと思っているので,それを実現するために今の仕事を選びました。

私だからこそできることで医療を届ける

― 働いていて,学生時代のイメージと違うと思うことはありますか?

  仕事内容や職場環境に対してはあまり感じません。ですが,コロナ禍でコミュニケーションを取ることがとても大変だと思いました。働くまではコミュニケーションに対してあまり苦手意識をもつことがなかったのですが,英語で1度も会ったことがない人とメールやオンライン会議などをしていると,信頼関係を築くことにすごく難しさを感じます。コロナが流行ってから就職しているので,1度も現地に出張できていないんです。そういうことも関係しているのか,すごくコミュニケーションの壁にぶつかっています。働くことに対してというよりも,コロナの障壁に少し戸惑いました(笑)

 

― 働いていて,留学経験が活かされていると思うことはありますか?

 異文化が理由で緊張することはないことですかね。留学に行って,人類みな友達っていう考えが沁みついたので,仕事で海外の人とやり取りをしていても,異文化に対する抵抗や違和感を感じることはありません。
 あと,トビタテコミュニティを通じていろいろな学生に出会えたことも,私の考え方に大きな変化をもたらしました。現在でも,各方面で活躍しているトビタテ生に会うと,わたしも頑張ろうと思いますし,とても良い刺激をもらっています。

留学後にも続くトビタテ生との交流の1枚

― 留学経験以外で,働いていてやっておけばよかったなと思う経験はありますか?

 インターンシップです。私は大学院のとき,国際機関のインターンシップに関心があったのですが,研究をしながら病院で働いていたので,残念ながら,インターンシップに参加する余裕はありませんでした。しかし,今後,より詳細な目標ができたとき,国際機関や非営利団体という立場で活動することも選択肢の一つであると考えています。そのため,私自身にその経験がないことは,やはり少し残念に感じます。
 社会人になると,時間に制限されることが多く,やりたいと思ってもなかなか十分な時間をとることが難しくなってしまいます。何か新しいことを始めたいと思ったとき,多くのことは自分次第でどうにでもなると考えていますが,ただし,乗り越えるべき障壁や必要なエネルギー,効率性は始める時期やそのときの自分の立ち位置によって大きく変わってくると思います.
 学生も色々やることが多くて大変ではありますが,何が重要で,何が今しかできないのか,そういったことも考えながら,就職する前に,やり残したことや興味のあることをやっておいてほしいです。インターンじゃなくても,時間をかけないとできないことには学生の間に取り組んでおいてほしいなと思います。

 

― 今後実現したいこと,やってみたいことを教えてください。

 医療が届きにくいところに医療を届けることが私の大きな目標です。その目標に少しでも近づけるような活動をし続けたいです。
 その土地に合った技術やツールを勉強して,私だからこそできることで医療を届けられる人になりたいです。

 

― 学生時代の自分にメッセージを送るとしたら,どんな言葉をかけますか?

  そのまま,自分のやりたいことや思うことに忠実に行動していってください。

 と伝えたいです。

 自分が選んできた道が100%大正解だったかどうかはわかりませんが,少なくとも,やりたいと思ったことに正直に向き合ってきたおかげで後悔はありません。いろいろな人からいろいろな意見をもらい,ときには反対意見に悩むこともあるかとは思いますが,自分の人生には自分自身でしか責任をとれないことを忘れないでほしいと思います。

 

編集後記 ートビタテでの出会い ー
 今回の長澤さんのインタビューで印象に残ったことは,「人との出会い」だと思っています。留学中に出会った難民の友人,トビタテで出会った人。そんな出会いを通じて今の長澤さんのキャリア,そして,目標や思いが形作られているんだと感じました。
私自身も,トビタテでの出会いを通じて思いもしなかった未来を描いてみたり,実際に将来のキャリアに対する考え方も変わったりしました。長澤さんの話を聞きながら,トビタテだけではなく,いろいろな人との出会いを大切にしようと思いました。
次回はこの「社会人トビタテ生の留学する前と後特集」総集編をお送りします。

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