【報告】トビタテ学習PFイベント[勉強会シリーズ] 〇〇×サイエンス「災害×サイエンス」 “台風を知り尽くす島人” をオンラインで開催!
トビタテ事務局インターン生で理系分野のアウトリーチ活動の促進を行なっている井上拓也です!! 僕は、トビタテ5期理系コースでフランスの理工系高等専門学校にダブルディグリー留学とドイツの宇宙物理系の研究所でインターンシップを行なっていました。
本記事では、6月21日(日) にオンライン開催されたトビタテ学習PF「〇〇×サイエンス」シリーズのイベント「災害×サイエンス "台風を知り尽くす島人"」について報告させていただきます。
「〇〇×サイエンス」では、トビタテ生の科学リテラシーをアップデートすべく、新しい試みである"サイエンスラジオ"という形式に挑戦し、科学をわかりやすく、面白く伝える活動を行っています。
本イベントには期やコースを跨いだ方々に参加いただき、楽しんでいただくことができました! また、中には過去のイベントに参加した人がリピーターとして参加してくださいました!!
目次
サイエンスラジオ "台風を知り尽くす島人"
今回のイベントゲストは細川椿さんでした。 細川さんは、トビタテ8期生として台湾とハワイに留学し、台湾では台風に関する研究を、ハワイでは科学を一般の方々にわかりやすく伝えるアウトリーチ活動をされていました。現在は琉球大学理工学研究科に所属し台風による降雨の地形による強化に関する研究をされています!!
本イベントでは、「災害×サイエンス」の観点から、台風を知り尽くす細川さんに意外と知らない台風の〇〇を解説していただくとともに、with台風の日本に住んでいるからこそ知っておきたい台風の予測方法や防災に関する話をインタビュー形式で深掘りしました。
細川さんの留学大図鑑の記事はこちら↓
https://tobitate.mext.go.jp/zukan/detail-2159
当日のコンテンツ
- 台風に親近感を感じた人生!?
- 未だに知らない台風の〇〇!!
- 台風との上手な付き合い方
当日は、僕、井上がファシリテーター、大学院で科学コミュニケーションを学んでいる佐藤優紀さん(トビタテ5期)がMCを務めました!
- 台風に親近感を感じた人生!?
沖縄で生まれ育った細川さんは、これまで台風が接近することの多い沖縄と台湾でこれまで台風の研究をされてきました。そんな細川さんが研究対象として台風に興味をもったのは大学の台風物理学の講義がきっかけでした。台風が自らエネルギーを作り出し、一生懸命生物のように“生きている”ことに感銘を受けたそうです。実は、台風は、海面付近の水蒸気が上昇して水になるときに得られる熱からエネルギーを得ています。天気予報などでよく聞く温帯低気圧や熱帯低気圧と台風は、低気圧であるという点では同じですが、エネルギーの作り出し方が異なります。台風を含む熱帯低気圧は、水蒸気が水になるときの熱からエネルギーを得ていますが、一方で温帯低気圧は前線を伴っており、北の冷たい空気と南の暖かい空気がぶつかることで位置エネルギーが運動エネルギーへと転換されることによって活動しています。
また、細川さんは台風の研究をしに台湾に留学されましたが、実は「台風」という語の語源については、台湾によく来る嵐ということで「台風」と呼ばれるようになったという説もあるそうです。台風は沖縄にもよく来ますが、台湾にある国立台湾大学に台風研究者が多いことが、細川さんが台湾に留学された理由でした。ちなみに、台風の研究者は、よく天気予報で見るような雲が見える衛星画像だけではなく、台風の中の構造が分かるマイクロ波と呼ばれる電磁波帯での画像を使うこともあるそうです。理由は普段、我々が光と呼んでいる目に見える可視光線と呼ばれる電磁波帯では台風の上層部の氷の粒に光が反射されてしまい、台風の中の構造までよく見れないためです。 - 未だに知らない台風の〇〇!!
はじめに、台風がどのような場所で発生するかについて解説していただきました。台風は、赤道の少し上あたりの暖かい海の上で発生しやすいです。特に、日本付近で台風が強いエネルギーを持っていて、その原因は海流によって暖かい海水が太平洋の西側に分布しているからだそうです。また、台風、ハリケーン、サイクロンといった名称がありますが、この違いは単に地域による呼び方の差で、現象としての違いはないそうです。
次に、台風が回転している理由とその回転方法についても説明していただきました。台風には、地球の自転によって生まれる見かけの力「コリオリ力」によって、回転が生まれています。台風は低気圧、つまり中心の気圧が低いので、外から中心に向かって空気が流れ、風が発生しています。この外から中心に向かう風が、コリオリ力の影響を受けて、北半球では進行方向の右側に、南半球では進行方向の左側に曲がることで、台風は回転しているとのことです。したがって、台風の回転方向は地球の北半球と南半球では逆になります。また、台風の呼び方も国によって異なり、日本の天気予報などでは台風〇号と言われることが多いですが、正式には北西太平洋域では台風委員会に属する各国が名付けた140個の台風の名前リストが予め作成されていて、発生順につけられていきます。 また、台風は自力で大きな移動をすることはできず、台風の進路は偏西風や太平洋高気圧に依存していることも解説していただきました。台風が夏に日本列島にあまり来ないのは太平洋高気圧が日本を覆っているからであり、太平洋高気圧が弱まる秋になると北上が可能になり、台風が日本列島によく来るようになるとのことです。そして、地球温暖化によって台風がどうなるのかについては、日本近海の海面水温が徐々に高くなってきており、地球温暖化は台風にとってその勢力を強める好条件をもたらし得るということを説明いただきました。一方で台風の発生数は海面水温の上昇と関係性が見られず、発生数の増加は予測されていないそうです。ここ数年、台風が度々日本へ来るように感じられますが、台風の発生数自体は大きな変化はなく、たまたま日本付近へ接近しやすい環境があったのではないかとのことでした。 - 台風との上手な付き合い方
最後のコンテンツでは、細川さんに多くの災害をもたらす台風との付き合い方について教えていただきました。はじめに、台風のどの部分が特に危険かについて説明いただきました。台風は、台風の目の周りで一番強い暴風が吹きます。特に、台風の進行方向の右側は「危険半円」と呼ばれるように、台風の渦の方向と進行方向が重なるため、特に危険です。また、他の気象条件との関係で台風が危険になる場合もあります。前線が台風の北側にある時は湿った空気を前線のほうに送るので、台風によって前線が刺激されて豪雨になるため、注意が必要です。現在梅雨の時期で停滞前線が日本列島にかかっている状態なので、今後台風が発生したら注意していきたいですね。 台風の強さや大きさは、風速によって決まっています。よく天気予報で聞く、「猛烈な」や「非常に大きな」等の言葉はそれぞれ風速の大きさによって定義されています。また、天気予報で見る予報円は台風の大きさではなく、台風の中心が約70%の確率で入る領域を示しているものです。将来のことになるにつれて不確かさが増すので、予報円は段々と大きくなります。
最後に、細川さんが沖縄で実際に行われている台風対策法を教えていただきました。但し、台風は地理的条件によってもたらされる災害の種類や大きさは変わるため、必要な対策も異なってくることも指摘していただきました。実際、細川さんは、山岳地域では台風がもたらす降水量が強まるという研究を現在行っているそうです。
質問コーナー
最後に改めて参加者からの質問に答えるコーナーを設けました。
質問の中で台風の大きさが、台風の風速に関わりますかという質問がありました。
細川さんには、台風の強さは、等圧線の混み具合で風速が決まるので、巨大台風だからといって勢力が強いとは限らないことを説明していただきました。また細川さんが提示した台風全域での風速分布図に対して、台風の風速をどうやって記録しているのかという質問がありましたが、台風全域の風速を観測データのみによって求めることは難しく、数値モデルで再現したものを用いているのではないかと話していました。
台風の進路の予測に関しての質問に対しては、現在はいくつかの数値モデルの結果を組み合わせたアンサンブル予報によって進路予測は向上しているそうです。また、台風が発生することで良い影響はあるかという質問がありましたが、台風の上陸によって水資源を与えてくれることが最も大きなメリットだそうです。実際、2019年の台風19号で完成したばかりの八ツ場ダムの水が一杯になったという例がありました。
最後に、細川さんの今後の目標についての質問がありました。細川さんは台風がどういう状況で発生し、発達するのか、未だわかっていないことが多く、その謎を解明したいそうでこれからも博士課程に進学し研究を続けていくそうです。
参加者からは質問が途絶えることなく投げかけられ、充実した質問コーナーとなりました。
交流会
質問コーナー終了後は交流会をしました。交流会ではインタビューコンテンツや質問コーナーで聞ききれなかった質問が出たり、応用研究をしている参加者と基礎研究をされている細川さんがお互いに刺激し合っている様子もありました。また、様々な地域に住んでいる参加者から台風の進路や被害の地域差に対する意見もあり、細川さんが研究をするうえで参考になるような話もでき、交流会も大盛況のうちに終えることができました。
交流会の終了後、全員で写真をとり、本イベント「台風を知り尽くす島人」は終了しました。
イベントを終えて
本イベントではサイエンスを少しでも面白く、わかりやすく伝えることに焦点を当てています。今回のイベントでは、トビタテの期や分野を跨いで参加して頂き嬉しく思います。
8月9日(日)20:00-22:00開催予定の次回イベントでは、外部から「大学の先生芸人」黒ラブ教授(国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ)を登壇ゲストとしてお呼びして“「伝える」を「伝わる」に”というテーマで講演をして頂きます。 分野の異なる人に自分の専門を伝える際に、どのようにしたらその内容やおもしろさ・魅力が相手に「伝わる」のかを実践的に学べるイベントです。理系/文系、学生/社会人問わず、何か特定の分野に興味を持って取り組んでいるトビタテ生にとっては役に立つ内容ですので、是非参加していただきたいと思います。
なお、本イベントは、僕の他、トビタテ5期生の佐藤優紀さん、トビタテ高校3期生で事務局インターン生の生田大樹くんと協力して企画運営を行いました。御二方にはこの場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
最後に