第4回 田中麻理子さん(1期 理系、複合・融合人材コース)後編
目次
現在の仕事内容
齋藤)卒論とも関わっているという現在の仕事。仕事内容について教えてください。
田中)こちらの歌舞伎町開発計画に関する資料をご覧ください!
齋藤)うわ〜、社会人の資料という感じでとてもまとまっている!
田中)いえいえ。この資料は、内閣府のHPに掲載されているもので、東京圏国家戦略特別地区というプロジェクトに認定されている「歌舞伎町一丁目地開発計画(新宿TOKYU MILANO再開発計画)」というものです。
この計画では、劇場、ライブホール、映画館などの複合エンターテインメント施設の他に、ホテルやレストランなどの宿泊・交流機能を一体的に整備することで都市観光拠点を創出したいと考えています。あとは、空港連絡バスルートを形成して歌舞伎町エリアへのアクセスを向上させたいと考えています。
齋藤)でも、既にここのスペースを使い、レッドカーペットを敷いて映画のプレミアイベントなどをやっていますよね?被っていませんか?
田中)実はその発表会用のステージを仮設するのに相当な費用がかかっているんだよね。そこで私たちは、定常的にイベントを開催できるように常設のステージとビジョンを設けようとしているの。
この場所は区の「道路」という位置付けなので、規制が多い中でいかにハード面やソフト面でのエリアマネジメントに官民連携で取り組むかという観点は研究をしていた「公共空間におけるハード整備」という論文内容とも少しではあるけど関わっていて。。。
どういうイベントをするのかを考えていたりとか、どのように地域の方々と連携していくかとかをいつも念頭に入れています。最近だと、クリスマスにシネシティ広場でアートプロジェクションイベントを開催しました。
齋藤)施設をつくるにあたり、事前に地元とのつながりを持とうと努力しているんですね。
田中)そうね、地元の方々に歌舞伎町のことを教えて頂きながら、連携し合って「世界のエンターテイメントシティ歌舞伎町」の実現に向けて励んでいきたいと思っています。
このような活動によって歌舞伎町エリアのイメージが向上し、国内外からより多くの方が来て下さることでエリアとしての回遊性が高まり、活性化に資するのではと思っています。
齋藤)いやあ、格好いい仕事していますね。
田中)いえいえ。その他には、施設内各用途に興味を持った外資の企業がいると、英語を話すことに抵抗が少ないという理由でその調整役を担当することもあるね。
齋藤)4年目はどういった仕事を担当する予定でしょうか?
田中)引き続きこのプロジェクトに関わる予定なんだけど、計画施設が様々な用途で構成されているので、どう連動させていけるかなどについて考えていきたいと思っているよ。
ライブ会場で汗をかいた後にホテルでシャワーを浴びて、そのまま泊まってもらったり、施設内をどう動いてもらえるかという仕組みなどについても考慮していく必要があるなぁと思っている。
齋藤)一貫性という点でいうと、東京の街にも一貫性がないなあと思っています。自分の施設さえ儲かればいいという考えで、有象無象に建物が建てられていく。こういった状況をどのように思っていますか?
田中)今回のプロジェクトを見ても、自分の施設だけが儲かればいいという考えではなく、エリアとして活性化していけるといいなと考えています。地元の商店街や企業、新宿区の方々と話し合いをする中で一体感を醸成できるよう気をつけています。
スウェーデンに留学した時に思ったのが、多くの人種が共生している環境で、「どこ出身?」「何系のスウェーデン人なの?」といった質問はあまり聞かないこと。多様であることが当然で、そういった環境ではトイレも男女別に赤青で分かれている訳ではなく、サインはグレーで統一され、全て個室となっている。
歌舞伎町も同様で、国籍・人種・LGBT・年齢といった多様性がある中、世界の代表的なエンターテイメントシティを目指すなら、誰もが受け入れられる環境を作っていく必要がある。
元々、東急電鉄には「日常的に生活の場として使う鉄道や駅周辺の商業等の空間を誰もが快適に過ごせるようにしたい」という考えがあって入社して、現在の計画においてもそのような観点で寛容な場所にできるように取り組んでいるところです。
齋藤)この前ニュースで見たんだけど、新宿区の成人式出席者の50%以上が外国人で、将来的に新宿区は人種のるつぼになる可能性が高い。その中でパリのようにここはユダヤ教の人々、ここは中国人地区といった形で街が分断されないか不安を持っています。
田中)和を重んじるという意味で日本人は外国人を受け入れる素養はあると思うし、この施設の建設によって街に与える影響もあると思っています。
本計画地は東急グループの東急レクリエーションが元々所有していた土地ではあるものの、共同事業として取り組んでいて、東急電鉄の100周年事業でもあり、新しいチャレンジのプロジェクトでもあるんだよね。
留学と今の仕事
齋藤)もしスウェーデンに留学していなかったら、社会人3年間はどのように変わってきたと思いますか?
田中)たとえ留学していなくても、東急沿線に住んでいたので今の会社にはもともと興味を持っていたし、多分同じ会社を目指していたと思う。
ただ、スウェーデンの多様性や外国からみた日本人のおもてなしの心には気づかないまま、仕事をしていたかもしれない。加えて、「日本のまちづくりに北欧の風を」というテーマで留学していたので、より海外で学んだことを日本で活かしたいという気持ちが強くなったと思う。
例えば、渋谷駅で駅員をやっていたときも海外の人を受け入れるのはどうすればいいか考えて提案をしてきたし、今の歌舞伎町開発プロジェクトにおいても海外で学んでいた時の視点を常に意識して仕事をしているね。
齋藤)具体的にはどういった「北欧の風」を日本のまちづくりに活かしたいと思っていますか?
田中)2つアイデアがあります。1つ目は、スウェーデンのバリアフリー整備が参考になると思っていて、日本のエレベーターは垂直に移動する為、エレベーターに乗る為に余計に歩く必要が出てくる一方、スウェーデンは斜めに移動するエレベーターがエスカレーターと並行に設置されていて余分に歩く必要がない、ハンディキャップがある人に優しい作りになっている。
スウェーデンは日本と同じくらいの面積なのに人口は100分の1で土地が広いため、空間活用の可能性は異なるけれど、こういった優しいデザインを建築施設やインフラ整備等において導入したいというのが一つ。
2つ目は、北欧は自然と共存した持続的なまちづくりがされていて、開発をする中でも自然との共生や環境面における持続的な観点等も忘れないでいたいというところかな。
齋藤)最後に留学に向けて悩んでいる高校生・大学生にメッセージをお願いします。
田中)「留学を通して、本では学べない新しい世界に出会える、また世界中にネットワークができる」ということを伝えたいと思います。
留学、と言っても準備から実際の生活を回すことまで含め、大変なことも多かったけど、あの10ヶ月が無ければ今の自分はいないと思えるくらい充実した時間だったし、実際に新しい世界を肌で感じることができたのは人生においても貴重な経験だったと思います。
また留学時代の友好関係は今でも続いていて、これまでスウェーデン、タイ、インドネシア、シンガポール、フランスから総勢10人以上の友人が日本を訪れてくれました。再会することができる嬉しさだけでなく、日本の街を案内して文化や歴史を紹介したり、彼らの興味を知ることで客観的に見た日本の魅力を知ることができたり、とても貴重な、かけがえのない時間となっています。
これからも仕事で日本のまちづくりに関わっていくと同時に、自分のできる範囲で日本の良さを国内だけでなく海外にも発信し、より多くの人に興味を持ってほしい、好きになって欲しいと思っています。自分が海外に行く時に世界中にネットワークがあるというのもとても心強く、一生の財産だと思っています。
齋藤)「百聞は一見にしかず」で、本ではわからないけど留学したからこそ、自分の肌で感じ取れるものがある。感覚の話になってしまうけど、この感覚は留学した人にしか分からない独特なものだと思います。
加えて、留学時代の海外の友人はたとえ数年経ったとしても、連絡を取り続けていることが多いですよね。彼らからは、日本のメディアからだと勉強できない、最新の世界情勢を学べるのも大きいと思っています。今日はお忙しい中、ありがとうございました!
編集後記
トビタテ1期生は採用されて5年弱が経過し、社会で活躍し始めています。その中で3年目にして既にプロジェクトで活躍する田中さんのお話は非常に刺激的な内容でした。
印象的だったのは入社前から「誰もが使う空間に社会的弱者も取り込めるようにしたい」という崇高な目標を掲げ、その目標に向かい邁進する姿。また、留学して身をもって体験してきているからこそ提言できる外国人受け入れに向けたアイデア。インタビューを経て、こういった人にまちづくりを是非担ってもらいたいと心の底から思いました。田中さんには引き続き、2022年の開業に向け頑張っていって欲しいです。